高齢者の1月外出レクリエーション~施設と病院で叶える初詣と小さな旅~
目次
はじめに…施設や病院でも「初詣に行きたい」を叶えるために
1月になると、新しい年のカレンダーをめくりながら、「今年も無事に過ごせますように」と手を合わせたくなりますよね。多くの高齢者さんにとって、お正月の初詣や年始のご挨拶は、子どもの頃から続けてきた大切な年中行事です。ところが、介護が必要になって施設に入居したり、病気で入院したりすると、「もう神社やお寺には行けないのかな…」と、心のどこかで諦めてしまう方も少なくありません。
一方で、施設や病院の側には、寒さや感染症、転倒などへの不安があります。ご家族からのクレームや評判への影響を考えると、「とにかく外出は控えよう」という判断になりがちです。それ自体は決して間違いではありませんが、その結果として、高齢者さんが「守られてはいるけれど、楽しみがないお正月」を過ごしてしまうなら、本当に望ましい形と言えるでしょうか。
少し視点を変えてみると、外出は危険だけのものではなく、「その人らしさ」を取り戻す切っ掛けにもなります。昔から通っていた氏神様にもう一度行ってみること。近くの神社やお寺に短い時間だけでも足を運んで、空気の冷たさや境内の賑わいを肌で感じてもらうこと。もし、どうしても外に出られないなら、施設や病院の中に小さな神社コーナーを作って、「気持ちだけの初詣」を用意すること。工夫次第で、心が外の世界へと出掛けていく場面は、いくらでも作ることが出来ます。
本記事では、1月という特別な時期に敢えて「外出レクリエーション」を考える意味を、昔ながらの風習と重ねながら整理していきます。その上で、施設での個別対応の初詣の進め方、病院だからこそ出来る在宅復帰に繋がる工夫、ご家族も巻き込んだ写真や思い出の残し方などを、具体的なイメージが湧くようにお伝えしていきます。
安全と楽しさの間で揺れ動きがちな1月の行事。どちらかを諦めるのではなく、「その人と家族、スタッフ皆が納得できるお正月の形」を探すお手伝いが出来れば幸いです。
[広告]第1章…冬こそ閉じこもりがち?高齢者の「外に出たい」本音
1月は、一年の中でも特に寒さが厳しい時期です。乾いた冷たい風、路面の凍結、流行しやすい感染症…。施設や病院で働く職員さんにとっては、どうしても「外出=リスク」というイメージが強くなりがちです。「転んだらどうしよう」「体調を崩したらどうしよう」「もし流行りの病気を持ち込んでしまったら…」と考え始めると、つい「とにかく外に出さない方が安全」という判断に傾いてしまいます。
一方で、利用者さんや患者さんの心の中には、寒さとは別の「気持ち」があります。毎年のように家族と出かけていた神社。子どもの頃からの習慣になっているお寺の鐘の音。正月飾りが並ぶ商店街の空気。そうした思い出は、年齢を重ねてもハッキリと残っていることが多く、「本当は、今年も行きたかったなあ」という本音に繋がっています。
例えば、施設に入って初めての新年を迎えたAさんがいるとします。仲の良かった近所の友だちと、毎年のように大晦日の夜から神社に並び、元旦の朝にお参りをしていた方です。今年は足元が不安で、家族も心配して施設入所を選びました。身体は守られているけれど、窓の外に見える冬空を眺めながら、「あの神社、今年も賑やかなんだろうな」と胸の奥が少しだけキュッとする。こうした感情は、なかなか言葉にしてくれませんが、心の中には確かに存在しています。
職員側から見ると、「安全第一で過ごしてもらっている」という感覚があります。しかし、利用者さんからすると、「守られているけれど、何か物足りない」「季節を味わえないまま、ただ日が過ぎていく」という受け止めになってしまうこともあります。特にお正月は、年齢を重ねるほど、失いたくない「いつもの流れ」が強く意識される時期です。その流れがプツリと途切れると、「もう以前のような生活には戻れないのかな」という寂しさや不安にも繋がりやすくなります。
ここで少し考えたいのは、「外出=危険だから全部やめる」という極端な選択しか、本当にないのかどうかという点です。もちろん、無理な外出計画は避けるべきですし、体調や天候を甘く見ることも出来ません。でも、「距離を短くする」「時間をギュッと絞る」「人数を少人数にする」「混雑する時間帯を避ける」など、工夫の余地はたくさんあります。「絶対に行かない」と決めてしまう前に、「どこまでなら安全を保ちながら、その人の願いに寄り添えるか」を一緒に探ることが大切になってきます。
もう1つ大きいのは、外出そのものが、身体と心のリハビリになり得るという視点です。寒さを感じながらコートを着る動作、段差に気を付けて足を運ぶ感覚、境内の賑わいの中で人の流れを見て歩く経験。これらは、転倒予防やバランス能力の維持だけでなく、「自分はまだこんなことが出来る」という自己肯定感にも繋がります。外に出て戻ってきた後、「よく頑張りましたね」「来年も行けるように、一緒に体力をつけていきましょう」と声を掛ける時間自体も、立派なケアの一場面です。
そして、忘れてはいけないのが、ご家族の気持ちです。面会回数が減りがちな冬の時期だからこそ、「お婆ちゃん、今年もちゃんと初詣に行けたんだって」「お爺ちゃん、神社の写真に写ってるね」と話題に出来る出来事があると、離れて暮らす家族にとっても安心材料になります。施設や病院での暮らしが、「制限だらけの場所」ではなく、「その人らしい時間を守ろうとしてくれる場所」だと伝わりやすくなるからです。
1月の外出レクリエーションは、確かに手間も準備も必要です。でも、そのひと手間が、利用者さんの「外に出たい」という本音を掬い上げ、「今年もちゃんとお正月を迎えられた」という実感に繋がります。次の章では、昔ながらのお正月の風習を辿りながら、どのような外出の形が高齢者さんにとって意味のある「小さな旅」になるのかを、もう少し深く見ていきましょう。
第2章…1月の風習を辿る小さな旅~初詣・年始回り・女正月~
1月という月は、実は「外に出る切っ掛け」がギュッと詰まった時期でもあります。現代の私たちは、仕事や家事、天候の事情もあって、全ての行事を丁寧にこなすことは難しくなりましたが、高齢者さんが若い頃には、1つ1つの行事にちゃんと意味がありました。その意味を思い出していただきながら、「今の体調でも、ここまでなら出来そう」というラインを探していくことが、1月の外出レクリエーションを考える上で大切なポイントになってきます。
大晦日から元日にかけての「二年詣り」は、その代表的な例です。年が変わる前後に神社やお寺へ足を運び、古い年への感謝と新しい年の無事を、続けて祈る過ごし方です。ずっと昔は、家族総出で夜道を歩き、冷たい空気の中で境内の灯りや人の賑わいを感じながら並んだ方も多かったはずです。高齢者さんの中には、「若い頃は仕事帰りにそのまま神社へ寄った」「子どもを背中におぶってお参りした」など、二年詣りと結びついた具体的な記憶を持っている方も少なくありません。
年が明けてからの「初詣」も、単なる観光ではなく、「その年をどう生きるか」を静かに考える時間でした。生まれ育った土地の氏神様にお参りする方もいれば、有名なお寺まで電車で出掛ける方もいましたが、共通しているのは、「家の外へ出て、年の始まりを確かめに行く」という行動です。境内までの道程、石段の感触、振る舞いのお神酒や甘酒の温かさ。そうした細かな体験が、五感の記憶として身体に残っています。施設や病院からの外出を考える時、この「五感の記憶」に少しでも触れられるかどうかが、大きな手掛かりになります。
また、昔のお正月は「挨拶の季節」でもありました。目上の方の家へ伺う「御年賀参り」、仕事先やお世話になっている方の元へ向かう「年始回り」など、今よりもずっと人と人との行き来が多かった時代です。背広に着替えて出かける男性、晴れ着や余所行きの着物を整える女性、子どもたちはその横をチョロチョロと走り回りながら、一緒に挨拶回りの家々を巡りました。つまり1月は、「祈りのための外出」と同時に、「人に会うための外出」が自然と組み込まれていた月だったのです。
そして忘れてはならないのが、「小正月」とも呼ばれる1月15日前後の過ごし方です。地方によって風習は様々ですが、女性が正月の忙しさからひと息つくという意味で「女正月」と呼ばれることもあります。お雑煮やおせちの準備、親戚のもてなしに追われた女性たちが、ようやく自分の時間を持てる日でもありました。高齢者さんにとっては、「あの頃は大変だったけれど、今思えば賑やかで楽しかった」と笑いながら振り返る話題がたくさん眠っているタイミングでもあります。
こうして振り返ってみると、昔の1月には、「祈るために出掛ける」「人に会うために出掛ける」「忙しさから解き放たれるために出かける」という、いくつもの目的を持った外出が散りばめられていたことが分かります。今の高齢者さんの多くは、大正末期から昭和の厳しい時代を経験し、物が少ない中でも、これらの風習を工夫しながら大切にしてきた世代です。その記憶に寄り添ってレクリエーションを組み立てると、「何となく出かける」よりも、ずっと深い意味を持つ時間を作ることが出来ます。
例えば、施設であれば、午前中は近くの神社へ短時間だけ初詣に出掛け、午後は面会に来られたご家族と「年始回りごっこ」を楽しむ、といった組み合わせが考えられます。廊下や談話コーナーをいくつかの「お宅」に見立てて、小さな玄関飾りや家紋風のカードを掲げ、そこへご家族と一緒に挨拶に回ってもらうのです。実際の外出は近場の神社だけでも、気持ちの上では「何軒ものお宅を回った」1日に変わります。
病院であれば、長時間の外出が難しい方に向けて、「女正月」をヒントにしたリラックスデーを用意する方法もあります。女性の患者さんには、病棟内の特設コーナーで甘酒やおしるこを味わってもらい、職員によるハンドケアや軽いメイク、髪のセットなどでオシャレを楽しんでもらう。男性の患者さんには「お留守番組の団欒」として、昔の正月の話を聞きながら、お茶と和菓子を囲む小さな会を開く。こうした工夫を加えることで、実際に長距離を歩かなくても、「ああ、今年もちゃんと1月らしい時間を過ごしたな」という満足感を得てもらうことが出来ます。
つまり、1月の風習を辿ることは、単に昔話を語るためではなく、「今、この場所で出来る小さな旅」をデザインする作業でもあります。外出時間や移動距離には制限があっても、二年詣り、初詣、年始回り、女正月といったキーワードを組み合わせれば、その方の生きてきた道程と繋がるレクリエーションが自然と見えてきます。次の章では、こうした風習を踏まえながら、施設で実践しやすい具体的な初詣プランと、思い出を形に残す工夫について掘り下げていきます。
第3章…施設のレクリエーションを格上げ~個別初詣と写真の壁画作り~
多くの施設では、初詣と言えば「近くの神社まで皆でバスに乗って出かける行事」というイメージが強いかもしれません。もちろん、それも立派なイベントですが、体力面や安全面の理由で参加できない方も出てきますし、「毎年同じ神社に、同じように行って帰るだけ」で終わってしまうと、だんだんと特別感が薄れてしまうこともあります。そこで視点を少し変えて、「その人の人生に合わせた個別初詣」という考え方を取り入れてみると、1月のレクリエーションがグッと深く、温かいものになっていきます。
個別初詣は「その人の物語」に寄りそう外出
個別初詣のスタートは、派手な企画ではなく、小さな聞き取りから始まります。食事の後やリハビリの合間に、「若い頃はどこの神社にお参りしていましたか?」「子どもの頃、誰と一緒にお寺に行きましたか?」と、さりげなく昔の話を聞いてみます。生まれ育った土地の氏神様のこと、結婚してから夫婦で通っていた神社のこと、子どもや孫と手をつないで歩いた参道のこと。少しずつ記憶の扉が開いていくと、その人にとっての「大切な場所」が浮かび上がってきます。
その上で、「今の体調や足元の状態なら、ここまでなら行けそうだ」「流石にそこまでは難しいから、代わりにこの近くの神社を候補にしよう」と、現実的な落としどころを一緒に探していきます。ご家族にも協力をお願いして、「昔よく行っていた神社はどこですか?」「今、行くとしたらどこが安心ですか?」と情報を集めると、その人らしさを崩さずに計画を立てやすくなります。
ここで大切なのは、「皆が同じ場所へ行く」ことよりも、「その人が納得できる形で年の始まりを迎える」ことです。体力に余裕のある方は少し遠くの馴染みの神社へ、歩行が不安な方は施設から徒歩数分の小さな社へ、中には玄関先の小さな祠にお参りするだけ、という形になるかもしれません。それでも、本人にとって意味がある場所を選び、本人のペースで外に出ることが出来れば、それは立派な個別レクリエーションになります。
安全面を押さえた穏やかな外出の組み立て方
個別初詣というと、「準備が大変そう」「スタッフの手が足りない」と不安に感じるかもしれませんが、少人数で日程を分散させることで、意外と無理なく実施できることがあります。例えば、松の内の間に、利用者さんを1日辺り1人から2人程度にしぼり、介護職員と理学療法士、あるいは看護師がペアになって付き添う形をイメージしてみます。
事前に短い時間でも下見をして、境内までのルートの段差や坂道の有無、トイレの位置、ベンチや腰掛けの場所、混雑しやすい時間帯などを確認しておくと、当日の不安がグッと軽くなります。車いすを利用する方なら、砂利道の長さや傾斜もチェックしておきたいポイントですね。防寒対策として、帽子やマフラー、膝掛けを準備し、出発前には体調と血圧を確認しておきます。「調子が良さそうなら予定より少し長めに」「疲れ気味ならお参りだけしてすぐ戻る」といった柔軟さを持てると、本人も職員も安心して出かけられます。
参拝そのものも、ゆっくり丁寧に進めていきます。賽銭箱の前に立つのが難しければ、少し離れた場所から手を合わせてもらっても構いません。鈴を鳴らすのが難しければ、職員が代わりに鳴らして、「今年も元気で過ごせますように」と声に出して代弁してあげても良いでしょう。おみくじやお守りを選ぶ時間も、レクリエーションの大切な一部です。「どれが良いかな」「昔は交通安全のお守りをよく買ったよ」といった会話が生まれることで、短い外出でも、心の中には豊かな時間が残ります。
写真の壁画が施設全体の思い出になる
個別初詣を行う時に、もう1つ大切にしたいのが「記録を残す」という視点です。外出に同行した職員が、神社の鳥居の前や境内の一角で、利用者さんの写真を1枚撮影しておきます。本人の体調や表情を優先しながら、無理のない範囲で笑顔の場面を切り取っていきます。
施設に戻ったら、その写真を印刷して日付と行き先、職員や家族からのひと言メッセージを書き添えます。「〇〇神社にお参りしました」「今年も甘酒を飲めました」「階段を自分の足で登りました、すごい!」といった短いコメントでも、その人がどのようにお正月を過ごしたかが、一目で伝わる記録になります。
これらの写真を1枚ずつ貼るだけでなく、ホールや廊下の一角に「初詣ギャラリー」としてまとめて掲示すると、施設全体の雰囲気が一気に華やかになります。実際に外出した方は、写真の前を通るたびに「あの日は寒かったね」「また来年も行けるかな」と思い出を振り返る切っ掛けになりますし、今回は出かけられなかった方にとっても、「来年は自分も行ってみたい」という目標作りに繋がります。
ご家族が面会に来られた時には、この壁画を一緒に見てもらうことで、会話のネタが自然と増えていきます。「お婆ちゃん、こんなにしっかり歩けてるんだね」「お爺ちゃん、いい顔で写ってる」といった言葉が交わされると、利用者さん自身も、「自分はただ守られているだけではなく、まだチャレンジ出来ることがある」と感じやすくなります。写真の壁画は、単なる飾りではなく、心のリハビリにも繋がる大切な道具と言えるでしょう。
個別初詣と写真の壁画作りをセットで考えることで、外出レクリエーションは「その日だけのイベント」ではなくなります。準備の段階から、実施当日、写真を眺めて振り返る時間まで、長く続く物語として楽しめるようになります。次の章では、施設よりも制約が多い病院の現場で、この考え方をどう応用していくかを見ていきましょう。
第4章…病院からの初詣サポート~在宅復帰への励ましに変える工夫~
施設に比べて、病院はどうしても制約が多くなります。点滴やモニターに繋がれている方、少し動いただけで息が上がってしまう方、急な体調変化が心配な方…。こうした状況を見ると、「初詣なんて、とても無理」と感じてしまうかもしれません。けれども、だからと言って「今年は何もしません」で終わってしまうと、患者さんにとって新年は「ただ病気と向き合うだけの日」になってしまいます。病院だからこそ、「出来る人には小さく外へ」「難しい人には病棟の中で心だけ外へ」という二本立てで考えていくことが大切になります。
外出が可能な患者さんについては、まず全員に一度、「お正月にお参りに行っていた場所はありますか」「退院したら行きたい場所はどこですか」と、優しい聞き方で希望を伺ってみます。その上で、主治医、看護師、リハビリスタッフなどがチームになって、「誰なら、どの程度の距離までなら安全に外出できそうか」を相談します。いきなり遠くへ連れ出す必要はありません。病院のすぐ近くにある神社やお寺へ、短時間だけ出掛ける。車椅子で玄関先まで出て、空気だけでも一緒に吸ってから引き返す。そうした「小さな一歩」でも、患者さんにとっては大きな出来事になります。
この時、単なる気分転換として終わらせず、「在宅復帰への練習」という意味を持たせていくと、外出の価値がさらに高まります。例えば、リハビリの一環として、病棟内で事前に歩行練習をしておき、「今日は実際の歩道の段差を体験してみましょう」「横断歩道を渡る時に、どのくらい時間に余裕があるか確認してみましょう」と、退院後の生活を意識した課題を盛り込んでみます。初詣に向かう道程が、そのまま「家に帰った後、自分の足で外に出るためのシミュレーション」になるわけです。
外に出ることが難しい患者さんに対しては、「病棟内初詣」という発想が役立ちます。例えば、デイルームの一角に、簡易の鳥居風の飾りや小さなしめ縄、赤い布を敷いた台を置き、そこを「院内神社」と見立てます。折り紙で作った絵馬カードや、手作りのおみくじを用意して、「ここが、今年の皆さんの初詣会場です」と、少し遊び心を込めて案内します。患者さんにはベッドからの移動が難しければ、職員が台を押しながらベッドサイドまで出張する形でも構いません。「ここが今日だけの特設神社ですよ」と声を掛けるだけでも、日常とは違う空気が生まれます。
さらに一歩踏み込むなら、「代理参拝」を上手に取り入れてみる方法もあります。病棟内で事前に「今年、どんなことをお願いしたいですか」と質問し、短いメッセージをカードに書いてもらいます。そのカードを、スタッフやご家族が実際の神社やお寺へ持って行き、「〇〇さんの代わりにお参りしてきましたよ」と写真付きで報告するのです。写真には鳥居や本殿だけでなく、絵馬をかけた場所や手水舎など、その場の空気が伝わる部分も写しておくと、患者さんの想像がグッと膨らみます。
この時に大事なのは、「自分だけ置いていかれた」という疎外感を生まない工夫です。例えば、外出できた患者さんの写真を病棟に貼るだけでなく、「病棟全員分の願い事カード」を一緒に収めた写真も用意して、「このお守りは病室の皆の分です」と説明します。外出した人も、病室で待っていた人も、同じ新年の願いの輪の中にいる。そう感じてもらえるように、言葉かけと見せ方を工夫していきます。
ご家族の力を借りることも、病院ならではの大切なポイントです。面会の際に、「もし可能であれば、ご家族でいつもの神社にお参りに行かれた時、写真を1枚撮ってきてください」とお願いし、その写真を病室に飾らせてもらいます。写真の横には、「退院したら、ここに一緒に行こうね」と、ご家族からのひと言メッセージを書いてもらう。これだけで、病室の壁が「将来の約束」を映すボードに変わります。患者さんにとっても、リハビリに向き合う原動力になりやすくなります。
もちろん、病院での外出には、リスクの説明や家族の同意が欠かせません。寒さや感染症の心配がある時期だからこそ、「どの程度までなら安全に配慮できるか」「どんな準備をした上で実施するか」を事前にしっかり共有しておく必要があります。ただ、「怖いから何もしない」のではなく、「出来る準備をした上で、どこまでなら一緒にチャレンジ出来るか」を家族と一緒に考えていく姿勢を示すことで、病院全体への信頼感も変わってきます。
病院からの初詣サポートは、派手なイベントである必要はありません。実際に外に出る人はごく一部かもしれませんし、多くの方は病棟内での小さな初詣や代理参拝になるかもしれません。それでも、「この病院は、病気と戦う場であると同時に、心の願いも大事にしてくれる場所だ」と患者さんと家族が感じてくれたなら、その取り組みには十分な意味があります。次の「まとめ」では、施設と病院それぞれの工夫を振り返りながら、「安全」と「願い」を両立させるお正月の形について、もう一度整理していきましょう。
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寒さが厳しく、感染症への不安も高まる1月は、どうしても「外には出ない方が安心」という考えが前面に出やすい季節です。けれども、高齢者さんの心の中には、若い頃から続けてきた初詣や年始回り、女正月の思い出が、今も鮮やかに残っています。「もう年だから」「もう施設に入ったから」「もう入院してしまったから」と、何もかもを諦めてしまうのは、本当にもったいないことかもしれません。
そこで大切になるのが、「全部は無理でも、どこまでなら叶えられるか」という発想でした。施設では、皆で一緒のバス外出だけに頼らず、昔よく通っていた神社や、その人らしい場所をヒントにした個別の初詣を考えてみる。病院では、在宅復帰に向けた歩行練習としてごく短い外出を組み込んだり、どうしても動けない方には病棟内の特設神社や代理参拝で心だけでも外へ出てもらったりする。やり方は違っても、「新しい年を、自分なりに迎えた」という実感を持ってもらうことが、共通したゴールになっていきます。
そのためには、職員だけで抱え込まない工夫も欠かせません。事前のアンケートや聞き取りで、本人の希望や昔の習慣を教えてもらうこと。家族に昔の初詣の話を聞き、今の体調ならどこまでが安心か、一緒に考えてもらうこと。外出が難しい場合でも、「いつもの神社の写真」や「退院したらここに行こうね」というメッセージを届けてもらうことで、病室や居室の壁を「将来への約束」を映す場所に変えていくことが出来ます。
もう1つの鍵は、1日限りで終わらせない工夫です。初詣の写真を印刷してコメントを添え、ホールや廊下に壁画のように飾れば、外出した人も、今回は見送った人も、何度でもその場面を振り返ることが出来ます。「来年こそは自分も」「次はあの神社に行きたい」といった前向きな気持ちが生まれれば、日々のリハビリや生活意欲にも、静かに良い影響が広がっていきます。
もちろん、リスクへの配慮を軽く見ることはできません。寒さ対策、体調のチェック、混雑する時間帯を避ける工夫、家族への丁寧な説明…。やるべき準備は山ほどあります。それでも、「安全のために何もしない」のではなく、「安全を守る工夫をした上で、出来る範囲で願いを形にする」という姿勢を示せたなら、利用者さんや患者さん、ご家族にとって、その施設や病院は特別な存在になります。
1年の始まりをどう過ごしたかは、その年をどんな気持ちで歩んでいくかにも影響します。高齢者さんの「今年も無事に」「家族が元気で」「もう少し歩けるようになりたい」という静かな声に耳を傾けながら、職員と家族が力を合わせて、「その人らしいお正月の形」を探していく。安全と願いの間で揺れながらも、皆で納得できる一歩を選び取る。その積み重ねこそが、1月の外出レクリエーションを、単なる行事ではなく「人生の続きを一緒に歩む時間」に変えていくのだと思います。
今日も閲覧ありがとうございましたm(__)m
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