高齢者レクリエーション年間プラン術~季節の行事と毎日の楽しみをうまく回すコツ~
目次
はじめに…現場がラクになって利用者さんも笑顔になるレクリエーション発想法
高齢者の皆さんと過ごす1日は、本当にアッという間ですよね。食事、入浴、排泄、移動のサポート、服薬の声掛け、記録。そこにレクリエーションまで入ってきますと、職員は「今日は何をしよう?」と朝から頭を抱えてしまうこともあると思います。しかも、これは特別な日だけではなくほぼ毎日やってくる課題です。だからこそ、楽しく続けられる仕組みそのものを予め用意しておくことが、とても大事になります。
ここでまずはっきりさせておきたいことがあります。それは「楽しませるのは利用者さんで、職員は頑張って盛り上げ役」という考え方だけでは、長続きし難いということです。やる人が辛い企画は、どうしても空気に出てしまいます。反対に、職員自身が「これは面白い」「今日ちょっと楽しみ」と思える内容は、その気持ちごとフロアに広がります。高齢者の方はその雰囲気にとても敏感で、職員の表情や声色まで受け取ってくれます。ですから、職員も一緒に楽しんでいい、と言うよりむしろ楽しんで欲しい、というのがこのお話の出発点です。
また、レクリエーションはただの「暇潰し」ではありません。体を動かすことで筋力や可動域を保つサポートになったり、昔の記憶を思い出して語ることで頭の活性化につながったり、声を出して笑うことで呼吸や嚥下の良い刺激になったりします。小さな工作や簡単なお料理作りは、手先のリハビリにもなりますし、「自分で作った」「自分が参加した」という満足感は、その日の元気にも繋がります。つまり、レクリエーションは楽しみであると同時に、心と体のトレーニングの場でもあると言えるのです。
とはいえ、毎回ゼロから考えるのはとても大変です。そこで役に立つのが「季節を柱にする」という考え方です。お正月、節分、ひな祭り、花見、七夕、夏祭り、敬老の日、紅葉、クリスマス。こういった四季の行事は、高齢者の方にも馴染みが深く、思い出と繋がりやすいテーマですので、お話が膨らみやすい、歌が出やすい、エピソードが出やすいという強みがあります。つまり季節行事をうまく押さえておくだけで、1年の中の大きな山場は自然に決まっていくのです。
次のポイントは、その山場をもっと細かく割ることです。例えば「1月=お正月イベント」のひと纏めで終わらせず、「書き初めの日」「福笑いの日」「七草粥の日」「初詣ごっこの日」という風に分けてしまえば、同じ月の間にいくつも違う楽しみを置くことができます。これだけで「もうネタがない」という日がグッと減りますし、週ごとの予定表も埋めやすくなります。後から入ってくる新人スタッフさんにも共有しやすくなりますので、現場全体の安心感が変わります。
さらに押さえておきたいのは、立派な行事だけがレクリエーションではない、という考え方です。天気が悪い日、人数が揃わない日、外に出られない日、体調がイマイチ揃わない日。そういう時に役立つ「繋ぎの楽しみ」こそが、実は日常の空気を温めてくれます。思い出話をゆっくり聞く時間や、ちょい味見会、小さい体操、歌のワンコーラス。そういった短い遊びは、準備が少なくて済み、しかも安心して続けられる宝物です。本記事では、そういった日常の小技もまとめていきます。
このあと第1章では、四季に沿った大きな行事をどう押さえると1年の柱になるのかをご紹介します。第2章では、その柱を月ごと・週毎にほぐしていく考え方をお伝えします。第3章では、年度の計画をどう組んでおくと現場がラクになるのかという視点を共有します。第4章では、その日その場の空気で使える小さいレクリエーションや会話の進め方をお話しします。
大切なのは全てを完璧にやろうとしなくていいということ。最初から100点満点を狙うより、まずは「これならうちでも出来そうだな」というものを1つ取り入れて、そこから少しずつ育てていく。それが1年経つ頃には、施設全体の雰囲気や安心感そのものが変わっていきます。今日のお話が、その最初の1歩になってくれたら嬉しいです。
[広告]第1章…季節イベントは年中行事の柱になる
高齢者のレクリエーションを1年間続けていく時に、一番心強い柱になるのが季節毎の行事です。お正月や節分、ひな祭りや花見、七夕や夏祭り、敬老のお祝い、紅葉狩り、クリスマスといった行事は、高齢者の方にとって「体験したことがある」「思い出が話せる」「歌や食べ物が浮かぶ」というテーマになりやすく、とても扱いやすい土台になります。つまり季節の行事は、ただのイベントではなく、その月全体の空気をつくるメインストーリーだと言えます。
この「皆が知っている話題」というのは介護の現場ではとても大きな力になります。若い職員とご高齢の利用者さんでは、普段の流行も思い出の引き出しも違いますよね。それでも、お正月やお花見や夏祭りといったテーマなら、世代をこえて話が通じやすいのです。例えばお正月なら昔の遊びで盛り上がることができますし、節分なら豆まきの思い出から家族の話になったりします。敬老のお祝いなら、これまでの人生でどんな仕事をしてきたのか、どんな風に家族を守ってきたのかといった誇らしいお話を自然にうかがいやすくなります。つまり季節行事は、会話を引き出すための合図にもなってくれるのです。
1月にはお正月があります。年神様を迎える準備の話、初詣の思い出、七草粥の香り、鏡開きのお餅。どれも昔の家庭の姿が思い浮かびやすい題材です。福笑いやかるたや書き初めなど、手先や上肢を使う活動も取り入れやすいので、楽しみながら関節を動かす時間にもなります。手を大きく広げて札を取ろうとする仕草や、筆を持ってゆっくり字を書く仕草は、ただの遊びではなく、機能訓練にも繋がっていきます。さらに、皆で食べる鍋やお雑煮のような温かい食べ物は、その日1日の安心感そのものになります。「ああ正月らしいね」と口に出ると、それだけで場の空気が軟らかくなるのです。
2月には節分があります。鬼を追い払う豆撒きは、昔から家の中の厄を外に出す行事として親しまれてきました。ここでは豆に触れる、豆を掴む、投げるという一連の動きが、肩や指の運動にもなりますし、「鬼の面」を職員と一緒に作ることで工作の時間も生まれます。豆撒きの声出しは腹式呼吸に近い動きにもなるので、発声や嚥下の刺激としても役立ちます。夜の時間に「今日は静かな豆撒き反省会」と称して、昔の怖い話や家族の笑い話を聞くのも良い流れです。そこから自然に、それぞれの家庭の行事やしきたりの話へ進んでいきますので、世代を繋ぐ語りの場にも育てられます。
3月にはひな祭りがあります。ひな人形を飾る文化に触れながら、「わたしの家は七段飾りだった」「母が手作りしてくれた」といった個人の記憶がどんどん出てきます。雛人形風の紙人形を作ったり、桃色や白をイメージした甘い飲み物を用意したり、菱形の彩りをまねて一口サイズのおやつを並べたりすることで、目でも舌でも季節を感じてもらえます。手元の細かい作業は、指先を使う練習になりますし、色合わせや配置をあれこれ相談する時間そのものがコミュニケーションのリハビリになります。
4月になると桜の話題は外せません。実際に外出して花見が難しい場合でも、写真や動画、桜色の飾り、折り紙の花弁などを使えば室内でも春を演出できます。春の空気を感じる歌を小さな声で口ずさんだり、若いころのお花見エピソードを聞いたりするだけで、「外へ出たい」「歩きたい」という意欲付けにもなります。もし短時間でも屋外に出られる方がいらっしゃるなら、玄関先や中庭での少人数散歩を組み合わせると、足の運びや段差の確認といった安全面の練習にも結びつきます。
5月から6月にかけては、端午の節句や母の日や父の日といった「家族」をテーマにした行事が続いていきます。この時期は、誰かを思い出してありがとうを伝える気持ちが自然に言葉として出やすい季節です。例えば母の日にはカーネーションを折り紙で作ってメッセージカードに貼る、父の日には若い頃の仕事の話を中心に聞き出して「私はこんなに働いたんだ」と胸を張って語っていただく、という形がとても有効です。感謝を伝えるテーマは自尊感情の支えになりますし、普段あまりご自分のことを話さない方が、急に雄弁になることも少なくありません。職員にとっても、その方の人生背景を知る大きな手がかりになります。
7月から8月は七夕や夏祭りの季節です。短冊に願い事を書く、うちわを作る、提灯や屋台風コーナーを作る、かき氷の味見をする。夏の行事は色彩がはっきりしていて写真にも残しやすく、施設全体の雰囲気作りにも向いています。昔の盆踊りの思い出や、帰省やお墓参りの記憶など、夏特有の「家の行事」も話題にしやすい時期です。太鼓の音や手拍子のリズムに合わせて上半身だけでも一緒に動けば、肩関節や体幹の運動にもなります。水分や塩分の補給を意識できる季節でもあるので、飲みものをテーマにした味比べ会は安全管理と楽しさの両方を満たしてくれます。
9月には敬老のお祝いがあります。この日は人生の積み重ねを皆で讃える、とても大切な機会です。表彰のような形にして、手作りの賞状や感謝状を一人ひとりにお渡しする時間を取ると、会場の空気が温かく引き締まります。実はこの場面は、若い職員がご利用者の方の人生に敬意を持つきっかけになり、同時にご家族にも安心感を届けることができます。「わたしはまだまだ現役よ」と笑ってくださる方もいらっしゃいますし、「こんなに皆に祝ってもらえるなんて」と涙ぐまれる方もいらっしゃいます。敬老のお祝いは単なるイベントではなく、施設と本人と家族が同じ方向を向ける瞬間でもあります。
10月から11月は、運動の秋と実りの秋が重なります。軽い運動会は、対抗戦のような本格的な雰囲気にしなくても、玉入れや風船運びなど、座ったままで楽しめる内容に変えることで安全に取り組めます。体を動かす遊びは、普段はあまり表に出ない負けずぎらい精神や、応援してあげたいという優しさを引き出します。さらに、秋は実りの話題が豊富です。畑や田んぼに関わってきた方はもちろん、台所を守ってきた方も、サツマイモやきのこや柿などの話から一気に昔の暮らしを語ってくださることがあります。小さく切った季節の野菜を使って味や香りを確かめる時間は、嚥下の確認や食欲アップにも繋がります。
12月は年の締め括りとしてクリスマスと年越しの準備が並びます。飾りを手作りすることは指先の運動になり、室内の彩りそのものが気持ちを明るくします。ツリーの飾り付けに参加していただくと、「自分もこの場を作った」という手応えが得られます。クリスマス会では歌やささやかな贈り物の交換がうれしい刺激になりますし、年末には大掃除や正月準備という、昔ながらの暮らしのリズムの話題が自然と出てきます。これらは新しい年に向けた期待と安心感を育てる、とても大事な時間です。
こうして春夏秋冬の行事を押さえておくと、施設の1年が大きな山と谷をもって動きはじめます。つまり「今はこの季節だから、こういう楽しみがあるよね」と、皆で共有できる流れが生まれます。これは利用者さんにとって、日にちや季節の感覚を緩やかに取り戻す手掛かりにもなりますし、職員にとっても翌月のイメージを立てやすくなる安心材料になります。まずは四季を柱にする。これが、1年を無理なく回していくための最初の一歩なのです。
第2章…月ごとに細かく分けるとネタは無限に生まれる
季節毎の大きな行事をしっかり押さえることはとても心強い柱になります。ただし、その柱だけでは月末にネタ切れしてしまうことがあります。そこで大事になるのが、同じ月の中で複数の小さなテーマに分けてしまうという考え方です。これは「大イベントをこなしたらお終い」ではなく、「同じ月の間に、違う楽しみを週毎に並べていく」というやり方です。この形にすると、職員のみなさんは週ごとに準備するものを切り替えるだけで済みますし、利用者さんにとっても毎回違う刺激があるので新鮮さが長続きします。
例えば1月を思い浮かべてください。お正月会を1回だけ大きくやって終わりにするのではなく、1月中をいくつかの場面に割ります。月初めには書き初めや福笑いを行い、ゆっくり手を動かす時間を楽しみます。その次の週には七草粥をテーマに、香りや味を一緒に感じながら昔の家庭の台所のお話を引き出します。さらにその次の週には施設内に小さな鳥居やお札を飾って「初詣ごっこ」を行い、「若い頃どんな神社に行った?」「どの道を歩いて行った?」といった思い出話を聞きます。月の終わりには鏡開きにちなんだお餅を軟らかく工夫した試食会や、鍋物を囲んだ新年会風の交流会を開くことも出来ます。1月の間にテーマが次々と変わりますので、同じ顔触れでも「今日はまた別の楽しみだね」という雰囲気を保つことが出来るのです。
2月も同じ考え方で組み立てられます。初めに節分として鬼のお面を作る日を用意します。鋏や糊を使ったり、色紙をちぎって貼ったりするだけでも立派な手先の運動になります。次に豆撒きの日を作って、声を出しながら厄払いを楽しみます。その後の時間は「昔の家ではどんな風に豆まきした?」という語りの場にしても良いでしょう。それから月の後半には贈り物とお礼をテーマにします。綺麗な折り紙やシールで小さなラッピングを作ったり、メッセージカードを書いたりする時間を採ることで、誰かを思い浮かべて伝えるという心の動きも育ちます。お面作りの日、豆撒きの日、手作りプレゼントの日という風に目的を分けておけば、準備する物と声かけの内容が毎回変わりますので、同じ2月でもまったく別のイベントとして楽しんでもらえます。
3月はひな祭りが中心になりますが、これも一度きりで終わらせずに、段階を分ける方が場が長持ちします。まずは雛人形そのものを眺めたり、写真や昔の思い出を語ったりする「ひな飾りの日」を用意します。次に、紙でお内裏様やお雛様を作る「制作の日」を入れます。細かい紙を折ったり貼ったりする作業は、指の巧ちさを保つ練習にも繋がります。そして最後に、甘い白酒のかわりにジュースを使った乾杯や、菱形カラーをイメージしたやさしいおやつを並べる「ひな祭りパーティーの日」で区切りをつけます。これで3月全体の流れが一連の物語のようになります。「あの時作った雛を今日は飾っているんだよ」と、自分の手仕事が次の場面でちゃんと活躍している、という実感を持ってもらえるのも大きな効果です。
4月は桜だけではありません。外に出られる方は短時間の花見散歩を計画しますが、全員が外出できるわけではないことも多いですよね。そこで施設内では「桜の壁画作りの日」と「春の歌の日」を別枠で設定してしまいます。紙で花弁を量産して壁一面に貼っていく日は、作業そのものがレクリエーションになります。別の日には、春を感じる歌を静かに口ずさみながら、若い頃のデートや家族のお花見の思い出をお聞きする時間にします。歩行が安定している方は玄関先や中庭での短い立ち休憩を取り入れる散歩会を、また別の枠として準備しておけば、同じ4月でも外気や日差しに触れる機会をしっかり確保できます。複数の小さな場面に分けることで、体力差や体調差のある方同士でも「どれかには参加できた」という満足感を持ちやすくなるのです。
夏の時期も、ひとまとめにしないことがポイントになります。たとえば7月と8月は七夕や納涼会を大イベントにしがちですが、あえて小分けにします。まずは短冊作りだけの日を先に行い、願いごとを書くことで会話をひろげます。次に、うちわや提灯を手づくりする時間を別日に設けて、手首や肘を動かす細かい作業に集中します。そして最後に、屋台風のコーナーやかき氷の味くらべなどを行う当日を用意します。短冊の日、飾りの日、本番の日と流していくと、イベント当日は「自分たちが準備した空間に入っていく」という達成感がいつもより強くなります。さらに、水分補給や塩分補給という夏ならではの安全チェックも、改めて声かけしやすくなります。
秋には2つの流れを組み合わせると、よく回ります。1つは軽い運動、もう1つは味覚です。まず、体を動かす日を用意します。イスに座ったまま手で玉を投げ入れたり、風船を落とさないようにそっと送り合ったりする内容で十分です。そして別の日には、サツマイモや柿やきのこなど季節の香りをテーマにした「味わいの日」を置きます。小さく切った軟らかい食材を香りと色で楽しみながら、昔の畑仕事や収穫の話を聞きます。さらにもう一日、紅葉の話題や実りの思い出だけを語る「秋の語りの日」を設けておくと、その月全体が深みのある時間になります。運動、味わい、語り。この三点を別日に分けることで、無理なく毎週の予定に落とし込めるのです。
12月も同じです。クリスマス会と年越し準備を一緒にドンとやろうとすると、準備量が一気に膨らみ、疲れが残ってしまいます。そこで、まずは飾り作りだけの日を早めに設定します。折り紙やリボンでオーナメントを作り、壁やツリーに付けていく日は、指先を使う練習と達成感を同時に得られる時間です。次は、歌や小さな贈り物交換をゆっくり楽しむクリスマスの時間を、別枠で用意します。そして年末の週には「昔の年越しを思い出す語りの日」として、大掃除や年越しそばやお正月飾りの話を聞く時間を置きます。最後に、新年を迎える準備をほんの少しだけ行い、「来年も一緒にやろうね」と期待でしめくくります。こうして段階を分けておくことで、12月後半の慌ただしさに吞み込まれ難くなります。
このように、月毎にテーマをいくつも切り分けてしまうと、週単位の予定表が自然と埋まります。そして「今週はこれ」「来週はこれ」という形で小さく準備すれば良くなりますから、職員の負担も分散します。大事なのは、行事名だけを並べるのではなく、「この日は工作」「この日は味」「この日は思い出話」「この日は体を動かす」というふうに役割を変えていくことです。役割が変われば声かけも変わりますし、参加しやすい人も入れ替わりますから、同じメンバーでも毎回違った顔つきが見られるようになります。
結果として、利用者さんの中に「今月はまだ楽しみがある」「まだ私が参加する場面が残っている」という見通しが生まれます。この見通しは安心感になりますし、日付や季節の流れを感じる助けにもなります。そして職員にとっても、月末になってから慌てて企画を捻り出す必要が減っていきます。つまり、月を細かく区切ることは、現場の慌て方を和らげ、同時に生活のリズムをはっきりさせるための、とても実用的な技なのです。
第3章…年間スケジュールは最初からざっくりでも月イチ以上で押さえる
年間の予定作りは、介護の現場をラクにするための大切な土台になります。特にデイサービスや入所施設では、毎日いろいろなケアを同時に回しながら、その合間にレクリエーションを組み込んでいきますよね。ところが年度初めに「行事はお花見と夏祭りと敬老のお祝いとクリスマスね」というような大まかな行事名だけを上で決め、後は現場にどうにかしてもらうという形になっているところも少なくありません。これはいわゆる丸投げの状態で、職員のみなさんは月末が近づくほど「あれもまだ出来ていない」「今月どうまとめよう」という焦りに追い込まれやすくなります。
本当は、最初の時点で緩くてもかまわないので、年間を通して「月毎に最低どんなタイプの楽しみを置くのか」を決めておくのが理想です。ここで言う最低ラインというのは豪華な催しではありません。「制作で手先を使う日」「味わいで季節の食べ物にふれる日」「体を動かす日」「会話を楽しむ日」といったレクリエーションの役割ごとの小さな柱のことです。これを各月に1回以上は入れる、と最初から紙にしておくことで、現場はとても助かります。何故なら、1年の流れのうちどこで何をやるかが大まかに見えていれば、後になって慌てて考える必要がなくなるからです。
例えば4月なら「春の話題で会話を広げる日」と「短い外気浴を兼ねた散歩の日」を入れる。5月なら「母の日・父の日につながる制作の日」を入れる。7月なら「七夕のお願いごとを書く日」と「納涼の味比べの日」を入れる。9月なら「敬老の感謝を伝える式の時間」を必ず1コマ入れる。12月なら「飾り作りの日」と「思い出話で年を振り返る日」を入れる。このように、月の中で用意するべき場面を最初から並べてしまいますと、現場は「この枠さえ押さえれば今年のノルマはひとまず守れる」という安心を持てます。安心があると職員の声かけにも余裕が出て、空気そのものがやわらかくなるのです。
ここで大切なのは、ムリに細かい時間割まで作りこまなくて良いという点です。年度初めから「〇月〇日はこれ」「〇月〇日はこれ」とギュウギュウに固定すると、逆に体調不良や天候の影響で崩れた時に立て直しが難しくなります。それよりも「〇月はこのタイプの活動を最低1回はやる」という大きさにしておき、日付の決定や具体的な中身はフロアの職員に任せる形が望ましいです。このやり方なら、現場は利用者さんの体調の波を見ながら「今日は座って指先だけ動かす制作の日にしよう」や「今日はみんな声がよく出てるから会話の日にしよう」と当日の判断ができます。つまり、年間計画で方向だけを決めておき、細部のタイミングは現場の感覚を信じるという分担にしておくわけです。
管理者やリーダーの立場では、ここにもう1つ大事な役目があります。それは、行事ごとにどれくらいの道具や材料費が想定されるのかを、予め大まかで良いので示しておくことです。例えば「この月は手作りの装飾に力を入れる予定なので、画用紙や両面テープなどをこのくらいは用意していいですよ」「この月は季節の味比べを予定しているので、食材費としてこのくらいまでは使っていいですよ」という形で、目安を年度初めの紙に入れておきます。これがあるだけで、現場は「勝手なおやつ会をやって怒られたらどうしよう」という不安を抱えずに済みます。むしろ「これは施設として準備していい楽しみなんだ」と胸を張って取り組めるので、空気が前向きになります。
この先をさらに良くしていくためには、フロアからの声を1年かけて拾っていくことも大切です。例えば「指先を使う制作の日はとても盛り上がったから、来年も続けたい」という声もあれば、「運動の日は転倒リスクが不安だから、もう少し座位中心にしてくれると助かる」という声も出てくるでしょう。その声を年度末にまとめ、次の年度の予定表のたたき台に反映させます。この繰り返しフィードバックによって、1年ごとにその施設らしいスタイルが整っていきます。言いかえると、年度計画は単なるお飾りの書類ではなく、「うちの施設のカラー」を毎年更新していく地図になるのです。
こうして年間スケジュールを組んでおくことには、もう1つ大きな意味があります。それは新人さんや非常勤スタッフさんにとって学びやすい現場になる、ということです。現場に入ったばかりの職員は、「今日は何をすればいいのか」「どこまでやっていいのか」「どんな声かけが正解なのか」がわからず緊張してしまいがちです。ところが、月ごとに「今月はこのタイプの楽しみをやる予定ですよ」という道標が最初から共有されていれば、新人さんはその線路の上を走ればよいので安心できます。先輩職員も説明しやすくなりますし、「これはうちの施設の毎年のいつもの流れだよ」と伝えるだけで、現場の文化を自然に引き継げるようになります。
まとめると、年間スケジュールはきっちり固めすぎなくて大丈夫です。大事なのは、各月に「最低これだけは楽しみとして入れる」という枠を置き、必要そうな材料や準備の範囲を前もって許可しておくこと。そしてそのうえで、当日の細かな進行や声のテンポは、フロアの職員に委ねること。この形にしておくと、現場の自由度と責任のバランスがとても良くなります。利用者さんにとっては、毎月の楽しみが切れ目なく用意された安心できる1年になりますし、職員にとっては「今月はもう1つやるだけで目標クリア」という見通しが心の支えになります。つまり、年間スケジュールはプレッシャーの紙ではなく、皆が気持ちよく働けるための安全網なのだと言えるのです。
第4章…その日の空気ですぐ使える繋ぎレクと雑談タイムの魔法
どんなに計画をしっかり立てていても、現場には「今日は予定通りにはいかないな」という日があります。雨で外に出られない日、利用者さんの体調に波がある日、職員の人数がギリギリの日、なぜか全体的に眠そうでエンジンがかからない午前。そういう日は、大掛かりなイベントよりも、その場の空気に合わせた短時間の小さな楽しみが一番役に立ちます。この小さな楽しみは、普段「レクリエーションらしい」と思われにくいものも多いのですが、実は毎日の雰囲気を支える心臓のような存在です。ここでは、すぐ準備できて安全に楽しめて、しかも効果がちゃんとあるものをまとめていきます。どれも特別な道具はいりませんし、10分から30分くらいで区切れるので、とても扱いやすい時間帯の味方になります。
まずは、おしゃべりを中心にした時間です。これは単なる雑談ではなく、しっかり役割を持ったレクリエーションだと考えて大丈夫です。例えば「昔どんな恋をしたか」「若い頃の仕事でどんな事件があったか」「家族と過ごした年末年始の思い出」など、テーマを1つ職員がそっと置いてあげるところからスタートします。ここで大事なのは、職員が最初のひと声をかけたら、後は出来るだけ聞き役に回ることです。「それでどうなったんですか」「それはどこで起きたんですか」と、やさしく続きを引き出す感じで問い掛けていくと、自然に当時の情景が溢れてきます。ご本人同士が「うちもそうだったよ」「いやうちは違ってね」とやりとりを始めたら、職員は一歩下がって、ニコニコしながら見守るくらいで丁度良いのです。
この会話タイムには、大事な意味がいくつもあります。まず、声を出すこと自体が喉の動きや呼吸のトレーニングになります。はっきり話そうとすると自然に姿勢も起き上がり、顔の表情筋も動きますので、飲み込みやすさや表情の豊かさにも繋がっていきます。また、昔の話を語ることは、記憶の整理や再確認の時間でもあります。「あの時わたしはこう思ったのよ」と自分の感情を言葉にすることは、自分の人生をまっすぐ肯定する作業にもつながります。そしてもう1つ、他の利用者さんの昔話を聞く側にも効果があります。「あの人はこんな経験をしてきたんだ」という驚きや尊敬が芽生えるので、その後のフロア全体の柔らかさが変わっていくのです。つまり、雑談のつもりで始めた10分が、その日の空気を丸ごと温めてくれることがあるということです。
次に役立つのは、ちょこっと体操です。これは「さぁ運動です」と大げさに構える必要はありません。むしろ「肩を一緒に回してみましょうか」「手首をゆっくりグルグルしましょうか」といった緩い声かけで始める方が受け入れられやすいです。イスに座ったまま手を前に伸ばしたり、胸の前で両手を合わせて押し合ったり、脹脛をギュッと摘まんで血の巡りを感じてもらったりするだけでも、十分、体の刺激になります。特に、昼食前やおやつ前の時間にこの小さな体操を入れると、姿勢がシャンとして、ご本人が食べ物を飲み込みやすくなります。また、体操の最中に掛ける声、手を叩く音、皆で笑う雰囲気そのものが場のスイッチになりますので、それまで静まり返っていたフロアに「今目が覚めた感じ」が戻ることもよくあります。
お口の中や喉の感覚にそっと働きかけたい時には、味の楽しみをテーマにする小さな会もとても効果的です。これはいわゆる大きなご馳走ではなく、少量で良いので香りや温度を感じてもらう時間です。例えば、温かいお茶と少しだけ軟らかい甘味を合わせて「今日はホッとする時間にしましょう」と声を掛けるだけでも、立派なレクリエーションになります。そこに「これはどんな味がする?」「子どもの頃はどんなおやつが好きだった?」と話題を添えると、自然に昔の暮らしの話や、家族の台所の記憶に話が延びていきます。こうしたやり取りは、ただ食べるだけでなく、匂いを感じること、温度を感じること、味を言葉にすること、そしてその記憶を他の人と共有すること、全部がトレーニングになります。しかも、食べものの話は皆さん本当によく乗ってくださるので、静かだった場が一気に明るくなることも多いのです。
視覚や手先の動きに集中したい日は、ほんの短い制作の時間が助けになります。大きな作品を仕上げる必要はなく、小さな折り紙の花を一輪だけ作るとか、画用紙に季節の色でペタペタと貼り絵をしてみるとか、シールを台紙に並べて額縁のように見せるとか、それくらいの小ささで大丈夫です。完成形の美しさはそこまで気にしなくて良いのですが、「私がこの色を選んだ」「私がこの場所に貼った」という事実を残してあげることはとても大きいです。その一枚を後で壁に飾れば、利用者さん本人はもちろん、ご家族が来られた時や、他の利用者さんが通りかかった時にも話の切っ掛けになります。「これ、あなただよね」という声かけは、自分がこの場に参加しているという実感に繋がります。この実感は精神的な安心そのものなので、落ち着いて過ごしていただく助けになります。
これらの小さなレクリエーションには、1つ共通のコツがあります。それは、職員がしゃべりすぎないことです。もちろん最初の切っ掛けは職員が用意します。でも、その後はご本人同士のやり取りや、ご本人のペースに委ねていくほうが、結果的に盛り上がることが多いのです。会話の時間なら、途中からは拍手と頷きと笑顔だけで十分です。ちょこっと体操なら、「いいですね」「その調子です」と短い声かけだけで空間の安心感は保てます。味の会や制作の会も、「どれが好きでした?」「綺麗ですね」という緩い言葉を添えて、後は見守っていきます。職員が喋り続けると、どうしても全体が「やってもらっている時間」になってしまうのですが、職員が引き過ぎると今度は場が静まり返る。この間を取る意識が、とても大事です。
もう1つ、忘れてはいけない大切な視点があります。それは「繋ぎの時間」もきちんと価値があるという考え方を、現場全体で共有しておくことです。例えば、午前の入浴が押してしまったり、午後にリハビリスタッフの予定がズレたりすることはどうしてもありますよね。そんな時に、ただ待つだけではなく、雑談やちょこっと体操や味見タイムで過ごしてもらえたなら、それはその日を大切に使えたということです。紙に記録する時も、「空き時間におしゃべり」ではなく「個人の思い出を語る時間」「上肢可動域の維持を目的とした軽い運動」「嚥下刺激を目的とした試食」など、意味を持った言葉に置きかえて残しておくと、後から振り返った時にも役立ちます。
こうした日々の小さなレクリエーションは、派手さこそありませんが、利用者さんの安心と自信をジワジワ育てていきます。そして職員にとっては、「今日はこれだけは出来た」という手応えになります。大イベントがある日だけが良い日ではありません。10分でも20分でも、その人らしい笑顔や昔話が零れたなら、それは立派に施設の宝物です。大きな行事を支えるのは、じつはこういった何気ないひとコマの積み重ねなのだ、と気づいてしまうと、現場の見え方が少し変わってきますよね。
[広告]まとめ…「楽しい」は予定表だけでなく雰囲気でも育てられる
施設で過ごす1日1日は特別な行事の日だけが主役ではありません。お正月や夏祭りや敬老のお祝いのような季節のイベントは確かにその月の中心になる大きな山です。皆で写真を撮ったり、歌ったり、ちょっとお洒落をして集まったりする時間は、その人の中に「今年もちゃんと季節を迎えられた」という手応えを残します。この手応えは、安心と誇りの形になって心に残りやすい、とても大切なものです。
けれど、そういった目立つイベントだけが高齢者の楽しみではない、というところもポイントです。1か月をいくつかの小さな場面に分けて、「今日は書き初めの日」「今日は七草がゆの香りを楽しむ日」「今日は短冊に願いごとを書く日」「今日はうちわを作る日」と緩やかにテーマを変えていけば、同じ月の中に複数の楽しみが生まれます。すると利用者さんは「まだ次の楽しみがある」という見通しを持てますし、職員は「今週はこの準備さえ整えば大丈夫」という気持ちで落ち着いて声をかけられるようになります。月を細かく分けることは、ネタ切れを防ぐだけではなく、不安を和らげる支えにもなるのです。
その上で、年間の予定作りにはもう1つ大きな役割があります。年度の初めに「各月に最低1つは手先を使う制作の時間を入れる」「最低1つは味や香りを楽しむ時間を入れる」「最低1つは体をほぐす動きを入れる」「最低1つは思い出を語る時間を入れる」という形で、月毎の柱を予め示しておくだけでも、現場は随分ラクになります。これは、きっちりと日付や内容を固定するという意味ではありません。むしろ逆で、方向だけを決めておくことで、その月の中のどこに置くか、どんな深さでやるかを、フロアの判断に委ねやすくなるのです。現場はその日の体調や天気を見ながら動けますし、管理者側も「ここまではやっていいよ」と材料や時間の目安を先に渡しておけるので、お互いの安心感が揃いやすくなります。
そして忘れてはいけないのが、「大イベント」でも「月イチの柱」でもない、いわゆる繋ぎ時間の価値です。10分から30分の雑談。ちょこっと体操。少しだけの味見。小さな折り紙や貼り絵。これらは一見すると特別なことではないのに、その日一日の空気をフッと明るく変えてくれます。声を出して笑うことで呼吸が深くなる。自分の昔話を聞いてもらうことで、胸を張れる。誰かの思い出に「そうそう、うちもね」と重ねることで、その場に仲間がいると感じられる。つまり、繋ぎの時間はただの待ち時間ではなく、その人が「ここにいていい」と思える時間そのものなのです。
現場ではどうしても「今日は予定通りに進まなかった」と反省してしまうことがあります。でも本当は、予定通りに進んだ日だけが良い日ではありません。雨で外に出られなかった午後に、皆で昔の夏祭りの思い出を語り合って笑えたなら、それは十分に豊かな時間です。急な人手不足で大きな準備が出来なかった日でも、机を囲んで小さな味比べをして「この味はね」と話が弾んだのなら、それも立派な1日の成功です。小さな成功をちゃんと価値あるものとして扱っていくこと、それをスタッフ同士で「今日のこれ、良かったよね」と言葉にして残していくことは、その施設の大切な文化になります。
つまり、高齢者のレクリエーションは、行事そのものをやる技術ではなく、「楽しさが途切れない環境を育てる力」だと言っても良いのではないでしょうか。季節の行事を1年の柱として立てる力。月ごとのテーマを分けて週ごとの楽しみに落としこむ力。年度の初めに緩やかな地図を描き、現場に安心して渡す力。そして、予定が崩れた日でも場を温め直せる小さな魔法を当たり前のように差し出す力。この4つが揃うことで、利用者さんの「また明日もここで過ごしたい」という気持ちと、職員の「今日もやれた」という成長の手応えが、ゆっくり積み重なっていきます。
施設での暮らしは4月から3月までの1年を何回も重ねていく長い旅です。だからこそ、最初に計画を作る側と、日々の場を動かす側が、同じ温かさを目指していて欲しいのです。大きな行事も、月イチの柱も、繋ぎの10分も、どれもがその人の暮らしの一部になります。季節が巡るたびに、「またこの時期が来たね」と笑える。作った飾りや聞いた昔話が、壁やアルバムや記録にそっと残っていく。そんな積み重ねが、施設全体の信頼と安心をゆっくり育てていきます。
そして、その信頼と安心こそが、次の年の計画をもっと良くしていく力になります。初めから完璧にしようとしなくて大丈夫です。まずは、今年の12か月を、みんなで楽しく走り切ること。その経験が、次の12か月をさらに過ごしやすくしてくれるのです。
⭐ 今日も閲覧ありがとうございましたm(__)m 💖
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