12月の高齢者レクリエーションは福を呼ぶおやつ時間で整える
目次
はじめに…歳末ラッシュの前にひと息つける場面を作る
12月の介護現場は、本当に慌ただしいですよね。
クリスマスの飾り付け、行事食、面会対応、大掃除、年明け準備……と、どれも省けない行事ばかりで、職員さんの頭も体もフル回転になります。利用者さんは行事が続くことで表情が明るくなりますが、その舞台を作る側はどうしても疲労が溜まりやすくなります。
そんな時期こそ、敢えて力の抜けるレクリエーションを1回挟むと、全体の流れがとても整います。
大掛かりな飾りも要らず、準備もシンプルで、利用者さんが「自分で出来た」と感じられて、しかも冬らしい温かさがあるもの。そうした小さな1回が、職員さんの燃え尽きを防ぎ、利用者さんには「今年も良かったねえ」という満足感を残してくれます。
今回ご提案するのは、歳末らしい縁起とお茶時間を1つにした「福茶作り」をレクリエーションにしてしまう方法です。
お茶を淹れるという落ち着いた所作は、高齢の方にも取り組みやすく、座位で参加できますし、嗜好に合わせたアレンジもできます。厨房さんにも協力してもらいやすく、デイサービスでも特養でも取り入れやすいのが大きな利点です。
忙しい12月の中に、ほんの一時「今日は緩くいきましょう」の日を作る。
そのための具体的な考え方と、実際の進め方を、この後、順番にお話ししていきます。
第1章…行事が続く12月にこそ“負担の少ない楽しさ”を差し込む理由
12月の介護現場は、年間で最もイベントが集中する時期と言って良いと思います。
クリスマス会の準備をしながら、同じフロアでは大掃除の段取りを考え、並行してお正月飾りの材料も手配する。ご家族が来られる施設なら面会対応も増えますし、通所系なら送迎の時間調整も発生します。1つ1つは「例年通り」であっても、全部が一度に重なるとどうしても職員さんの心と体に負荷がかかります。
ここで忘れてはいけないのが、利用者さん側のペースです。
イベントが続くと、楽しい半面、普段より刺激が増えるために、後からドッと疲れが出る方もいます。特に認知症のある方や、生活リズムの乱れに弱い方は、賑やかな会の後に少し落ち着いた時間を入れてあげると、その後の生活が安定しやすくなります。つまり12月は「賑やかな日」と「和らぐ日」を交互に置いていくと、利用者さんにも職員さんにもやさしい1か月になります。
ところが現場では、どうしても「見える成果があるレク」を優先したくなるものです。
壁面装飾が完成したり、持ち帰りの作品ができたり、写真映えする会をしたりすると、「今年もやれた」という達成感がありますよね。もちろんそれはとても大切で、利用者さんのご家族にも伝わりやすい取組です。ですが、その合間に1つだけ、準備が軽くて、座ってできて、温かいものを口にできるレクリエーションを入れておくと、12月全体のリズムがグッと楽になります。
そこで役に立つのが「季節感はあるけれど、厨房や介護職員の手を取り過ぎないプログラム」です。
例えば和風の飲み物を味わう会、冬の行事の話をしながら一緒におやつをいただく会、昔家庭でしていた年末の支度を思い出すような会などは、準備物が少なくて済みますし、参加のハードルも低くなります。特別な衣装も大きな装飾もいらないのに、季節の終わりをしっかり感じられるからです。
「今日は頑張る日」ばかりだと、どうしてもどこかで糸が緩んでしまいます。
反対に、「今日は肩の力を抜いていい日」が月内に1回でもあると、職員さんの表情が和らぎ、その空気がそのまま利用者さんにも伝わります。12月のレクリエーションは、華やかな企画だけでなく、この“休ませるための企画”を同じくらい大事にしておくと、最後の年越しまで気持ちよく走り切ることができます。
この後、続く章では、その“休ませるための企画”を、実際におやつ時間として形にする方法をお伝えしていきます。
第2章…大型イベントの合間に置くと喜ばれるおやつ系プログラムの考え方
12月に行う企画を考える時、多くの施設ではどうしても「クリスマス会」「年末の会」「年始の準備」といった大きな催しから先に埋めていきます。これはとても正しい順番なのですが、その大きな山ばかりを見ていると、職員さんも利用者さんも“ずっと全力”で走ることになってしまいます。
ここで視点を少しだけ変えてみましょう。
大きな行事の間に、体も心も緩む小さめの企画を1つ差し込んでおくと、全体のスケジュールがグッと整います。これは、音楽会と音楽会の間に静かな鑑賞の時間を入れるのに似ています。派手さはないけれど、「今日は温かい日だったね」と言ってもらえる、そういう位置付けのレクリエーションです。
このタイプの企画で大切なのは「準備の軽さ」と「参加のしやすさ」と「季節感」の3点です。
まず準備の軽さですが、歳末は厨房・事務・介護どの部署も忙しいので、買い足しが少なく、使い慣れた器具で回せる内容が向いています。お茶、湯のみ、トレー、消毒、これくらいで済むなら、現場にとってはとても助かります。
次に参加のしやすさです。
12月は体調を崩しやすく、普段なら工作や体操に参加する方でも、当日は「今日は見学で…」ということがあります。そんな時でも、おやつ系の企画なら、座ったまま香りを楽しむ・一口だけ味わう・周囲の話を聞く、といった緩い参加が出来ます。これならフロア全員を巻き込みやすく、「今日はあの人も一緒に出来たね」という満足感にも繋がります。
そして季節感。
年末年始の話題は、日本ではとても強く記憶に残っています。昔の家ではどんなことをしたか、どんなものを飲んだか、誰と過ごしたか。お茶や温かい汁物は、そうした記憶を引き出しやすいアイテムです。そこに少しだけ縁起の良い要素を添えてあげると、「ああ、お正月が近いのね」という情緒が自然と立ち上がってくれます。
おやつ系のレクリエーションを「時間を埋めるためのもの」としてではなく、「大きな行事を綺麗に終わらせるためのワンクッション」として位置づけると、職員さん自身も持ち味を発揮しやすくなります。話すのが得意な人は昔話で膨らませてもいいですし、栄養士さんと協力して、塩分や水分の調整を話題にしてもいい。既にある業務を少しオシャレに見せる──それだけで立派なレクリエーションになります。
この後ご紹介する「福茶作り」は、まさにこの3点を満たす内容です。
座って出来て、季節が感じられて、しかも温まる。道具も多くありません。歳末の合間にポン、と置いておけるので、年内のスケジュールに無理なく組み込めるはずです。
第3章…みんなで支度して味わう「福茶」作りの勧め
ここからは、実際に歳末のレクリエーションとして取り入れやすい「福茶」をテーマにしてお話しします。
福茶は、もともとお正月や節分など「事の始まり」にいただいて無病息災を願う日本ならではの飲みものです。具材を少し入れて、上からお茶やお湯をそっと注ぐだけという、とても素朴なものなのに、器を手にした瞬間に季節の空気がフワッと立ち昇ります。利用者さんの年代とも相性がよく、「うちではこうしてたよ」と思い出を語ってもらいやすいのが大きな魅力です。
レクリエーションで使う時は、由来を一言添えてから始めると雰囲気が出ます。
「昔は年の初めにこれを飲んで、一年を元気に過ごしましょうねと願ったんですよ」
「黒豆はマメに働けるように、昆布はよろこぶ、梅は魔除けと言われたんですよ」
こうした話題を最初に入れておくと、参加者の方の表情が和らぎ、自然と会話の輪が出来ます。話すのが得意でない職員さんでも、短い説明を1つ覚えておけば安心して進行出来ます。
準備する具材は、無理にたくさん揃えなくても大丈夫です。
黒豆や昆布、梅干しのうちから1~2種を用意して、後はほうじ茶や番茶、またはお湯を使えば十分に“福茶らしさ”は出ます。胃腸が弱い方が多いフロアなら塩気を控えたり、昆布を細かく刻んでおいたり、梅を小さくしておいたりといった配慮を入れてあげると、どなたでも安心して召し上がれます。お茶を注ぐ係と、具材を小皿から入れる係を分ければ、手指の動きが難しい方にも参加していただけます。
進め方としては、ゆっくりとした順番で時間を回していくのがコツです。
最初に職員さんがお手本を見せて、次にテーブルごとに「ではこちらの方どうぞ」と声を掛けていきます。利用者さん同士で「そっちの梅もらっていい?」といったやりとりが始まったら大成功です。冬は水分量が減りやすいので、「今日は温かいお茶も兼ねています。ゆっくり飲んでくださいね」と声を添えておくと、看護職・介護職の両方の視点を満たす時間になります。
味わう場面では、ぜひ“昔と今”を結びつける話題を入れてください。
「子どもの頃の年末って、どんなことをしていましたか」
「大晦日のご馳走は何が楽しみでしたか」
「おせちの中で一番好きだったものは何でしたか」
こうした問いかけを、温かい湯気と一緒に届けると、記憶が呼び起こされやすくなります。お茶は飲みながらでも会話が続けられるので、歌や体操よりもゆっくりしたペースで進められ、職員さん側の疲労も少なく済みます。
そして何より、福という字がつくものを年末にいただくと、場に「今年も無事にここまで来ましたね」という空気が流れます。
行事が多くて慌ただしい月の中に、こうした小さな儀式を1回入れておくと、利用者さんにも職員さんにも「今年をちゃんと締められた」という手応えが残ります。大きな飾りがなくても、写真に残るほど派手でなくても、心に残る歳末のレクリエーションになります。
第4章…安全・衛生・厨房との連携で施設らしくアレンジするポイント
福茶作りはとてもやさしい内容ですが、施設のプログラムとして実施する以上は、安全面と衛生面をきちんと押さえておくと安心です。ここでは現場でありがちな躓きどころを先に整理しておきます。少し意識するだけで、同じ内容でも「施設で行う行事」としての完成度がぐっと上がります。
まず意識したいのが、お湯の温度です。
冬場はどうしても熱い飲み物を出したくなりますが、高齢の方の中には口腔内の感覚が鈍くなっている方、嚥下機能が落ちている方がいらっしゃいます。喉に負担をかけないよう、予め適温にしてから配茶できるようにしておきましょう。ポットをテーブルに置いて、参加者がそれぞれ注ぐ形式にする場合は、職員さんが「もう少し冷ましてからどうぞ」と声を添えるだけでも事故予防になります。
次に衛生面です。
具材を自分で摘まんで入れる形は参加しやすいのですが、指先の清潔が保てない利用者さんもおられます。その場合は、テーブルごとに手指消毒を回すか、職員さんが小皿に取り分けて配る形にすると安心です。梅干しや昆布など、べたつきやすい具材は最初から一口大に切っておき、トングやスプーンで取れるようにしておくと、スムーズに進行出来ます。
そして欠かせないのが厨房・栄養との事前相談です。
一見、お茶を飲むだけのように見えても、飲水量や塩分、アレルギー、刻み食・とろみ食などの個別対応が必要な方が混ざっていることがあります。「この日だけは全員同じように飲みます」で済ませるのではなく、「この方には具材なしで」「この方にはお湯だけを」「この方にはトロミを」といった調整を事前に確認しておくと、当日の現場が慌てません。厨房側に「歳末で福茶をテーマにしたいです」と早めに伝えておくと、和風の茶菓子を添えてもらえることもあります。
器も、できれば季節感のあるものを用意しておくとよいでしょう。
真っ白な湯のみでももちろん構いませんが、赤や金が少し入った器、またはお正月用のトレーに並べるだけで雰囲気が変わります。見た目が整うと「今日は特別な日」という印象が強まり、利用者さんの満足度も上がります。写真を撮る際にも画になりますので、後からご家族に様子を伝えたい時にも役立ちます。
職員さんの動きについては、「配る人」「説明する人」「安全を見守る人」を分けておくと安心です。
利用者さんの前で、一人の職員さんが全部の役割を抱え込むと、どうしても慌ただしくなります。説明が上手な人はゆっくり場を温める役、介助が得意な人は各テーブルを回る役、と分けてしまえば、一人辺りの負担が軽くなりますし、ミスも起きにくくなります。12月はただでさえ残務が多い時期ですから、当日の段取りが軽くなるように配置しておきましょう。
最後に、実施後のひと言も忘れずに。
「今年もここまでご一緒できましたね」「温かい物を飲むと元気が出ますね」と声を掛けるだけで、その時間が“締めくくりの行事”として記憶に残ります。大きなステージではありませんが、こうした小さな歳末プログラムを1つ入れておくと、施設全体の12月がやさしい色合いになります。次の章では、ここまでをフワッとまとめて、翌年にも回せる形にしていきます。
まとめ…一年を丸く締める温かい一杯で職員さんも利用者さんも笑顔に
12月の介護現場は、どうしても「やることを終わらせる」方に目が行きがちです。
飾り付け、行事、年末年始の準備……どれも利用者さんの楽しみに繋がる大事な仕事なので、手を抜くわけにはいきません。けれど、その途中でほんの1回だけでも、職員さんと利用者さんの両方が力を抜ける時間を作っておくと、月末の疲れ方がまるで違います。
今回お話しした「福茶作り」は、そのための小さな仕掛けです。
材料は多くなくていいのに、器にお湯を注ぐだけで場に季節が満ちて、利用者さんが自分の昔話をしやすくなります。お茶を飲むという動作は高齢の方にとって馴染みが深く、座ったまま出来るので参加の幅も広がります。職員さんも、派手な出し物を演じるというより、傍に寄り添って「今年もここまで一緒に来れましたね」と声を掛けるだけで、その日が特別な日になります。
施設で行うレクリエーションは、いつも大きなイベントでなくて構いません。
大きな山の前後に、温かくて緩やかな“縫い目”のような時間を挟んでおくと、1か月の流れが整い、利用者さんの体調にも配慮できます。歳末にお茶をいただく、という日本らしい所作は、写真にも残しやすく、来年以降も「今年もあれをしよう」と定番化しやすい内容です。
どうか無理なく続けられる形で、皆さんの施設らしい12月の1日を作ってみてください。
職員さんの笑顔が和らぐと、利用者さんの笑顔も和らぎます。
その和らぎこそが、冬のレクリエーションを温かく見せる一番の力になります。
今日も閲覧ありがとうございましたm(__)m
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