12月の医療と介護はなぜこんなに忙しい?病院・施設・在宅の年末事情

[ 12月の記事 ]

はじめに…12月の介護現場に静かに近づく“年末ラッシュ”

12月も中盤が近づくと、街はイルミネーションやクリスマスソングで賑やかになりますが、医療や介護の現場では、少し違った空気が流れ始めます。カレンダーの残りがあと僅かになるにつれて、「今年中に」「年内までに」という言葉があちこちから聞こえ始め、いつもの忙しさに、ジワジワと年末特有の慌ただしさが上乗せされていくのです。

病院では、「お正月は自宅で迎えたい」と願う患者さんやご家族の気持ちに応えるため、退院や在宅復帰の準備が一気に加速します。高齢者施設では、一時帰宅や面会、年末年始の行事が重なり、ケアの調整や安全確認に追われます。在宅分野では、普段の訪問に加えて、病院や施設から戻ってくる方の相談や準備が増え、スケジュール帳がアッという間に埋まっていきます。

さらに、年末は体調を崩しやすい時期でもあります。寒さによる体力低下や感染症の流行に加え、大掃除や買い出しなど、普段より無理をして転倒や体調悪化に繋がるケースも少なくありません。「楽しく年末年始を迎えたい」という願いと、「安全に過ごしてほしい」という支える側の思いが、現場のあちこちで交差します。

一方で、医療や介護に携わる人たちにも、家族との時間や自分自身の暮らしがあります。利用者さんや患者さんの希望を叶えたい気持ちと、自分や家族の生活とのバランスの間で、溜め息をつきたくなる瞬間もあるでしょう。

この文章では、病院・高齢者施設・在宅それぞれの現場が、なぜ12月にこれほど忙しくなるのかを、具体的な場面を交えながら追いかけていきます。そして最後に、支える側も少しでも心が軽くなるような、年末を乗り切るための考え方や段取りのヒントも一緒に整理してみたいと思います。

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第1章…病院の12月は“退院ラッシュ”と“受け入れラッシュ”の板挟み

12月になると、病院の空気は少しずつ変わっていきます。外来の待合室にはクリスマスツリーが飾られ、BGMもどこか華やかになりますが、スタッフの表情はむしろ引き締まっていきます。「お正月は家で過ごしたい」という声が一気に増え、退院の調整と、新たな入院の受け入れが同時に押し寄せてくるからです。

入院設備のない開業医の先生方も、本当は「早めに仕事納め」とはいきません。午前中の診察が終わった後に大掃除をしたり、レイアウト変更をしたり、長く通ってくださっている患者さんの自宅に往診へ出かけたりと、裏側では静かに忙しさが増していきます。診察室の灯りが消えてからが、本当の年末モードのスタートという医院も少なくありません。

一方で、入院設備のある病院は、12月に入ると一気に「退院までのカウントダウン」が始まります。患者さんやご家族からは、「年内に一度家に帰れませんか」「お正月くらいは自宅で迎えさせてあげたいんです」という相談が増えます。その願いに応えるために、医師や看護師、リハビリスタッフ、医療ソーシャルワーカーなど多職種が集まり、「家に帰るための条件」を一つ一つ確認していきます。

年末に向けて一気に加速する「退院までの道程」

退院とひと口に言っても、「今日から急に自宅でどうぞ」とはいきません。歩く、立つ、トイレに行く、食事を摂る、薬を飲む…。普段は当たり前に思える動作が、病気や怪我を経た身体には大きなハードルになります。

そのため、12月のリハビリ室は、いつも以上に熱気に包まれます。患者さん自身も「ここを頑張れば家に帰れる」と分かっているので、表情がグッと前向きになり、トレーニングに力が入ります。それに応えるように、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士などのスタッフは、担当する方の回数や内容を見直しながら、限られた日数の中で最大限の効果を引き出そうと工夫を重ねます。

退院に向けては、リハビリだけでなく「生活のシミュレーション」も重要です。例えば、自宅の玄関に段差がある場合はどうするのか、トイレや浴室に手すりは必要か、ベッドは今のままで大丈夫か、夜間にトイレへ行く時の動線は安全か…。

そのために、病院のスタッフが一緒に自宅を確認しに行くこともあります。そこで初めて、「想像していたより階段が急だ」「冬はこの部屋、とても冷える」といった現実が見えてくることも多く、12月の病院スタッフは院内と利用者さん宅を行ったり来たりしながら、年末年始を安心して過ごすための準備に走り回ることになります。

救急搬送と予定入院が重なる12月の現場

退院の準備でバタバタしているところへ、さらに追い打ちをかけてくるのが「新しい入院」の波です。年末は、大掃除や買い出し、忘年会などで、普段より無理をしてしまう方が増える時期でもあります。重い物を持ち上げてぎっくり腰になったり、寒い中で外出して肺炎になったり、年末の挨拶回りの途中で転倒して骨折したり…。

救急搬送で運ばれてくる高齢者の中には、「本当は無理をしている自覚があったけれど、年末だから頑張ってしまった」とおっしゃる方も少なくありません。病院側としては、既にいる入院患者さんの退院調整を進めながら、新しい患者さんの受け入れ先のベッドを確保しなければならず、まさに綱渡りのような状態になります。

さらに、手術や検査を「今年のうちに終わらせておきたい」という希望も重なるため、手術室や検査室のスケジュールもびっしりです。日中の予定手術や検査が押してしまうと、その後の処置や病棟でのケアも遅れてしまい、看護師たちは「時間」との戦いを強いられます。

病院だけでは完結しない…地域との連携もフル回転

12月の病院が大変なのは、「病棟の中だけ」で仕事が完結しないからでもあります。退院する方が自宅で暮らせるようにするためには、地域の訪問看護ステーションや訪問介護、ケアマネジャー、福祉用具事業所などとの連携が欠かせません。

例えば、「退院日までにベッドと手すりを入れてほしい」「点滴をしながら一時的に自宅で過ごしたいので、訪問看護でフォローしてほしい」といった調整が一斉に動き出すのが12月です。ところが、地域の事業所も同じように年末モードで忙しく、スケジュールはどこもパンパン。1本の電話を掛けても、折り返しを待つだけで半日が過ぎてしまうこともあります。

その結果、病院のソーシャルワーカーや看護師は、電話・書類・家族説明・カンファレンスのループから抜け出せなくなってしまいます。「この方を年内に帰すなら、こことこことここにお願いして…」と、まるでパズルを組み合わせるように段取りを考え続ける日々です。

このように、12月の病院は「退院を後押しする力」と「新しい入院を受け止める力」の両方を、最大限に発揮しなければなりません。患者さんやご家族の「家で新年を迎えたい」という願いに寄り添いながら、安全と安心を守るために、現場は今日もフル回転で動き続けています。


第2章…高齢者施設の12月は帰省と行事と人手不足が一度に押し寄せる

「施設に入っているから、年末も安心」――そう思われがちですが、現場の感覚は少し違います。12月の高齢者施設は、むしろ1年の中でも上位に入る忙しさになります。お正月の一時帰宅や家族の来訪、年末年始の行事が重なる上に、いつも通りのケアは止まりません。表には出にくい調整ごとが、静かに、そして大量に積み上がっていきます。

一時帰宅の「うれしさ」と「不安」を同時に抱える現場

12月に入ると、ご家族から少し照れくさそうに、しかしどこか嬉しそうにこんな相談が増えてきます。「お正月だけでも、家に連れて帰ってあげたいんです」。長く施設で暮らしている方にとって、自宅で過ごす年末年始は、特別なご褒美のような時間です。

一方で、施設側の胸の内は複雑です。「家で過ごしたい」というお気持ちはよく分かりますが、同時に「本当に安全に過ごせるだろうか」という不安も抱えています。ご本人の現在の歩行状態や飲み込みの力、持病、夜間の様子などを踏まえた上で、自宅の環境やご家族の介護力と照らし合わせていく必要があるからです。

そのため、12月の相談員やケアマネジャーは、ご家族との面談や電話連絡が一気に増えます。「玄関に段差はありませんか」「お風呂はどうされていますか」「夜間のトイレは誰が付き添えますか」――一つ一つを確認しながら、一時帰宅の可否や期間、必要な支援を一緒に考えていきます。場合によっては、ご家族に介護の仕方を練習してもらう「介護教室」のような時間を設けることもあります。

さらに、一時帰宅に向けて、施設内でのリハビリやケアの内容も変化します。「後少し歩ける距離を伸ばしたい」「トイレ動作をもう一度確認しておきたい」といった目標を短期間でクリアするため、機能訓練指導員や介護スタッフが密に連携しながら、個別のプログラムを組み直していきます。ご本人も「家に帰る」という明確な目標が見えるため、いつも以上に表情がいきいきとしてくる時期でもあります。

とはいえ、一時帰宅にはリスクもあります。自宅で転倒して骨折してしまったり、環境の変化や疲れから体調を崩されたり、短い間に心身の状態が大きく変わる可能性もゼロではありません。施設としては、その可能性を出来るだけ減らすために、事前の説明や調整に時間をかけることになります。これが、12月の忙しさに大きく影響していきます。

行事ラッシュと人手不足が重なる12月の施設

施設の暮らしにとって、季節の行事は大切な楽しみの1つです。クリスマス会、忘年会、年越し蕎麦、お正月の飾りつけやおせち風メニュー…。12月の行事予定表は、とても華やかに見えます。その裏側では、職員たちが企画書を作り、飾りを準備し、出し物を考え、厨房と相談して特別食を調整し…と、細かな準備に追われています。

そこに、大掃除や環境整備も重なります。普段の清掃に加えて、窓拭きやカーテンの洗濯、ベッド周りの見直しなどを行う施設も多く、「いつも以上に動き回る12月」になりがちです。もちろん、その間も排泄介助や入浴介助、食事介助、見守りなどの基本的なケアは普段通り続いています。

さらに頭が痛いのが、人手のやりくりです。職員にも家族がいて、帰省や子どもの行事、自宅の用事があります。年末年始を含めたシフト作りは、まさにパズルのような作業です。「この日は家族の予定があってどうしても休みたい」「ここだけは夜勤を外して欲しい」といった希望と、入所者さんのケアに必要な人数とのバランスを、管理職やリーダーたちが必死に調整していきます。

加えて、冬場はインフルエンザやノロウイルスなどの感染症が流行しやすい季節でもあります。面会に来られるご家族の人数が増える分、体温測定や体調確認、手指消毒の声かけなど、いつも以上にきめ細かな対応が求められます。ひとたび施設内で感染が広がれば、行事どころか日常生活そのものが大きく制限されてしまうため、職員は「楽しさ」と「安全」の両立に気を配り続けることになります。

一時帰宅でしばらく不在になる方が増えると、入所者の数が一時的に減ります。その分、介護報酬の入るベッド数も減ってしまうため、施設経営としては悩ましい一面もあります。それでも、「家族と一緒にお正月を過ごしてほしい」という思いから、現場は出来る限りの支援を続けています。

そして年明け。自宅で過ごした方が施設に戻ってこられると、「歩き方が少し変わった」「食欲が落ちている」といった変化が見つかることもあります。12月に一時帰宅の準備で忙しかった分、1月は「元の暮らしに戻っていただくためのリカバリー」で慌ただしくなる、というのも高齢者施設あるあるです。

このように、12月の施設は、一時帰宅の支援、行事の準備、感染症対策、シフト調整など、さまざまな業務が一気に重なる時期です。それでも職員たちは、利用者さんとご家族の「笑顔で年末年始を迎えたい」という願いを支えるために、今日も現場で知恵と体力を総動員して動き続けています。


第3章…在宅チームの12月は電話と訪問と調整でカレンダーが真っ黒に

病院と施設が慌ただしく動き出す12月、その余波を全身で受け止めるのが在宅分野です。自宅で暮らす高齢者や家族を支えるチームは、普段からギッシリ詰まった予定の隙間に、年末特有の相談や依頼が次々と滑り込んできて、手帳のマス目がアッと言う間に真っ黒になっていきます。

在宅で関わる専門職は、ケアマネジャー、訪問介護、訪問看護、訪問リハ、福祉用具、薬局、地域包括支援センターなど本当にさまざまです。それぞれが普段通りの定期訪問を続けながら、病院や施設からの退院・一時帰宅の調整、自宅での年末年始を見据えた相談対応を同時進行でこなしていきます。

電話・調整・書類…ケアマネジャーの12月はフルマラソン状態

在宅分野のハブ役になることが多いのがケアマネジャーです。12月のケアマネの机の上には、メモと書類とカレンダーが広がり、電話の受話器はほとんど置かれる暇がありません。

「年末だけでも、病院から家に戻れないでしょうか」「施設から一時帰宅する間のサービスをお願いしたいんです」「家族が帰省するので、この期間だけ訪問の時間を変えてもらえますか」――。病院・施設・家族からの相談が一気に増え、1つの相談を受けるたびに、複数の事業所へ連絡を取る必要が出てきます。

例えば、退院して在宅に戻る方の場合でも、訪問看護の回数、訪問介護の時間帯、デイサービスの利用開始日、福祉用具の搬入日、主治医の指示内容、薬局との連携など、確認する項目は山ほどあります。1つでも調整がズレると、「年内に帰りたい」という希望が叶わなくなることもあるため、ケアマネの頭の中は終始フル回転です。

そこに追い打ちをかけるように、12月は翌年1月分の計画書類の作成や更新も重なります。普段から書類業務は多い仕事ですが、この時期は「目の前の調整」と「来月の準備」が同時進行で押し寄せてくるため、仕事の終わる時間がどんどん後ろにズレていきます。

訪問系サービスも予定ギッシリ…でも「年末だから」の一言に弱い

訪問介護や訪問看護、訪問リハのスタッフも、12月になるといつもと違う動きが増えます。

「大掃除は自分たちだけでは難しいので、いつもの訪問の時に少し手伝ってもらえませんか」「年末年始は家族が来るので、入浴の日をずらせないでしょうか」「正月料理で食事内容が変わるから、飲み込みの状態を見てほしい」など、生活に密着した相談が増えるのがこの時期の特徴です。

訪問に入るスタッフも、人としては同じように年末の用事を抱えています。それでも、「年末くらいは気持ちよく過ごしてほしい」という思いから、出来る限り日程や内容を調整しようと努力します。その結果、普段は余裕のある移動時間がほとんどなくなり、1日のスケジュールが分刻みに近い状態になることも珍しくありません。

また、寒さが増すことで体調を崩す利用者さんも増えます。急な発熱や呼吸状態の悪化、転倒による怪我などが重なると、訪問看護師には緊急対応の電話が入ります。「これから行きますね」と駆けつけた先で、医師への連絡や救急搬送の判断を迫られる場面もあります。予定訪問の合間にこうした対応が入るため、1日が終わる頃にはぐったり…ということも多いのが現実です。

“家でも年末年始を”という願いとギリギリの依頼の間で

在宅チームをさらに追い込むのが、「ギリギリのタイミングで舞い込む新規相談」です。

例えば、12月下旬になってから、「年末年始は家で看たいので、サービスを入れてほしい」と新たな相談が入ることがあります。気持ちとしてはとてもよく分かりますし、自宅で過ごしたいというご本人やご家族の願いも尊重したいところです。

しかし、現場の感覚としては、ここが非常に悩ましいポイントです。既に年末の予定はがっちり埋まっており、スタッフのシフトも決まり、福祉用具やベッドの手配にも時間が掛かります。加えて、役所の窓口はおおむね12月下旬で仕事納めとなり、新しい介護保険の申請や各種手続きが年内に完結しないケースも出てきます。

その結果、「出来ること」と「本当はやってあげたいけれど、どうしても難しいこと」の線引きをせざるを得ない場面が増えてしまいます。ケアマネや訪問系のスタッフは、その狭間で何度も悩みながら、ギリギリまで調整を試みることになります。

本当は、11月頃から少しずつ準備が始められると、在宅チームも余裕を持って支援の形を整えやすくなります。「年末年始を自宅でどう過ごしたいか」を早めに相談してもらえるかどうかが、12月の忙しさを左右する大きな分かれ道と言えるかもしれません。

支える人も、家ではひとりのパパ・ママ・家族の一員

忘れてはいけないのは、在宅の現場で働く人たちも、職場を一歩出れば普通の生活者だということです。家に帰れば、子どもの宿題を見たり、夕飯の準備をしたり、親の介護をしている人もいます。

「今日はもうクタクタだけれど、明日も朝イチから訪問が入っているから、洗濯だけは済ませておこう」「子どもの冬休みの予定と、自分のシフトをどう合わせようか」――。利用者さんの年末年始の暮らしを支えながら、自分の家の年末もなんとか回している、そんなスタッフがたくさんいます。

在宅チームの12月が忙しくなるのは、自宅で年末年始を迎えたいという利用者さんと家族の願いに寄り添おうとするからこそです。その背景には、複雑な調整と多職種の連携、そして支える側の生活との綱渡りのようなバランスがあることを、少しだけ頭の片隅に置いてもらえると、現場の人たちの心が少し軽くなるかもしれません。

次の章では、こうした状況の中で、支える側の心と身体を守りつつ年末を乗り切るための考え方や、依頼する側として意識しておきたいポイントについて掘り下げていきます。


第4章…支える人たちにも暮らしがある~年末を乗り切るための心と段取り~

12月の医療・介護の現場は、「誰かの年末年始を守る仕事」で溢れています。

病院では退院や入院の調整、施設では一時帰宅や行事の準備、在宅では電話と訪問のラッシュ…。そのどれもが、「ご本人やご家族に少しでもよい年末年始を過ごしてほしい」という願いから生まれています。

けれども、忘れてはいけないことが1つあります。支える側の人たちにも、同じように暮らしがあるということです。自宅には家族がいて、親の介護をしている職員もいれば、子育て真っ最中のスタッフもいます。一人暮らしであっても、掃除や買い出し、年始の準備に追われるのは同じです。

現場の人の善意と頑張りだけに任せてしまうと、どこかで必ず無理が出ます。この章では、支える側が少しでも自分の暮らしを守りながら年末を乗り切るための考え方と、利用者さん・ご家族の立場でできるちょっとした配慮について考えてみます。

「全部やらなきゃ」を手放すこともプロの判断の1つ

医療・介護の仕事に携わる人の多くは、「頼まれたら断りにくい」「何とかしてあげたい」と感じる、真面目で優しい人たちです。特に年末は、「この方を家に帰してあげたい」「ご家族の気持ちにも応えたい」と思うあまり、自分の時間や体力を削ってでも予定を詰め込んでしまいがちです。

しかし、支える人が疲れ切ってしまえば、ミスや事故のリスクが高まり、結局は誰のためにもなりません。本来の仕事の質を保つためには、「ここから先は難しいです」「この日程では安全が確保できません」と、プロとして線を引くことも大切な役割です。

例えば、年末ギリギリに新たな在宅支援を立ち上げて欲しいという依頼が来た場合、サービス提供側の体制や、ご本人の状態、環境整備の準備状況によっては、敢えて年明けのスタートを提案することもあります。それは決して冷たい対応ではなく、「安全に続けられる形で支えるための提案」と言えます。

「どこまでならできるのか」「どこからが危険なのか」を見極めて、敢えて出来ないことを伝える勇気も、年末を乗り切る大切な力です。

自分と家族の予定も堂々とスケジュールに書き込む

もう1つ大事なのは、「自分や家族の予定を、遠慮せずに予定表に書き込む」ということです。

医療・介護の世界では、「利用者さんが最優先」という言葉がよく使われます。それ自体はとても大切な視点ですが、いつも自分や家族を後回しにしてしまうと、心も体も擦り減ってしまいます。

例えば、子どもの発表会や家族の通院、どうしても外せない年末の用事などは、出来る限り早めに職場と共有し、シフト作成の段階で反映してもらうことが理想です。もちろん、現場の人員状況によっては、全ての希望が通るわけではありませんが、「最初から諦めて申告しない」のと、「まずは伝えた上で相談する」のとでは、大きな差があります。

また、たとえ1時間でも「自分のための時間」を意識的に確保することも大切です。お気に入りの飲み物をゆっくり飲む、短い散歩に出る、音楽を聴く、ストレッチをする…。小さなことでも、意識して自分を労わる時間を入れておくと、年末の忙しさの中でも心が少し落ち着きやすくなります。

「自分の暮らしを大事にすること」は、決して我儘ではありません。むしろ、長く現場を支えていくための大前提です。

利用者さん・家族としてできる“一言”の力

一方で、利用者さんやご家族の立場で出来ることも、確かにあります。

1つは、「早めの相談」です。年末年始を自宅でどう過ごしたいかを考え始めるのは、出来れば11月頃がお勧めです。早い段階でケアマネジャーや主治医、施設の職員に相談できれば、関係者がゆとりを持って準備を進めやすくなります。結果的に、希望を叶えられる可能性も高くなります。

もう1つは、「無理をさせない配慮」です。例えば、12月下旬の時点で大きな生活の変更を求めるのではなく、「今年は無理せず、来年はもう少し早く相談してみよう」と考えることも、立派な選択です。また、対応してくれたスタッフに対して、「こんな時期なのにありがとうございます」「年末なのに来てくださって助かりました」と、ひとこと労いの言葉を掛けるだけでも、現場の疲れ方は大きく変わります。

支える側の人たちは、褒められたり感謝されたりするために働いているわけではありません。それでも、「自分の仕事が誰かの役に立っている」と実感できる言葉をもらえた日は、不思議と足取りが軽くなります。忙しい時期だからこそ、お互いを思いやる一言が、現場を支える大きな力になります。

「頑張り過ぎない」ことが、年末年始を守る合言葉

医療や介護の現場で働く人たちは、どうしても自分のことを後回しにしてしまいがちです。でも、本当に必要なのは、「頑張り続けること」ではなく、「頑張り過ぎないこと」を意識する姿勢なのかもしれません。

無理に詰め込まず、出来ないことには線を引き、自分と家族の時間も予定表に入れておく。利用者さんやご家族の側も、少し早めに相談し、現場の事情にも耳を傾ける。

そうやって、支える側と支えられる側の両方が、少しずつ歩み寄ることで、「誰かだけが頑張り過ぎる年末」から、「皆で何とか乗り切る年末」に変えていくことが出来ます。

次の「まとめ」では、病院・施設・在宅それぞれの12月の姿を振り返りながら、読者様の一人一人がどの立場からでも意識できるポイントを、もう一度整理してみたいと思います。

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まとめ…頑張り過ぎない年末の医療・介護との付き合い方

12月の医療・介護の現場が忙しくなるのは、単に「年末だから」ではありません。病院では、「年内に一度は家に帰りたい」「お正月だけでも自宅で迎えたい」という願いが重なり、退院の調整と新たな入院の受け入れが一気に増えます。高齢者施設では、一時帰宅や家族の来訪、行事や大掃除が重なり、普段通りのケアに加えて、目に見えない調整や準備に追われる日々が続きます。

そして、その波を真正面から受け止めるのが在宅のチームです。ケアマネジャーは電話と書類とスケジュール調整に走り回り、訪問介護や訪問看護、訪問リハのスタッフは、ギュウギュウに詰まった予定の合間に急な相談や体調変化にも対応しなければなりません。どの場所でも、「誰かの年末年始を守りたい」という気持ちが、忙しさの裏側に静かに流れています。

一方で、その忙しさは、現場の人たちの体力や心のエネルギーをジワジワ削っていきます。善意と頑張りだけで支え続けていると、どこかで必ず無理が出てしまいます。だからこそ、「出来ること」と「今は難しいこと」に線を引き、ときには年明けへの持ち越しや、支援の形を見直す判断も必要です。それは冷たい対応ではなく、安全に暮らしを支えるための大切な選択肢と言えます。

利用者さんやご家族の側にも、出来る工夫があります。例えば、「年末年始をどう過ごしたいか」を、出来るだけ早い時期から相談しておくこと。11月頃から少しずつ準備の相談が始まれば、病院・施設・在宅それぞれが余裕を持って動きやすくなり、結果として希望が実現しやすくなります。また、「今年は無理をしないで、来年はもう少し早く相談してみよう」と考えることも、立派な選択です。

そして何より大きいのは、現場で働く人たちにも暮らしがあることを、ほんの少しだけ想像してもらうことかもしれません。「年末の忙しい時期にありがとう」「来てくれて助かりました」――そんな一言が、実はどんな差し入れよりも心に染みることがあります。自分の仕事が誰かの役に立っていると感じられるだけで、同じ12月の寒さの中でも、背筋を伸ばす力が少しだけ湧いてくるものです。

支える側にいる人たちも、自分や家族の予定をスケジュールに書き込み、小さくても自分のための時間を確保することが大切です。「頑張り続ける」よりも、「頑張り過ぎないように意識する」ことが、長く現場を支えるための鍵になります。

病院・施設・在宅、それぞれの現場が繋がり合い、多くの人の思いが交差する12月。誰か一人が全てを背負うのではなく、支える側と支えられる側が互いの事情に少しずつ目を向けながら、「今年も何とか乗り切れたね」と言える年末を目指していきたいものです。

この記事が、医療や介護の現場で働く方にとっては「無理をし過ぎないための小さなヒント」に、ご家族や地域の方にとっては「現場の舞台裏を少しだけ知る切っ掛け」になれば幸いです。来年の12月が、今年よりも少しだけ穏やかで、お互いにやさしい時間になりますように。

今日も閲覧ありがとうございましたm(__)m


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