桜のあとも春は続く~特養の室内レクリエーションで五感に咲かせる笑顔の花~

[ 季節と行事 ]

はじめに…桜が散った後に始まる特養の春遊び

桜が満開になると、特養の空気も少しだけやわらかくなります。

窓辺で「綺麗やなぁ」と呟く方、外へ出る前から上着を2枚も3枚も重ねようとする方、花よりおやつの気配に目が輝く方。春爛漫とは言いながら、現場の春はなかなか多彩です。職員さんの心の中では「天気よ、今だけ味方して!」という小さな祈りも飛び交います。ええ、花見は風流であり、同時に段取り勝負でもあります。

けれど、桜はずっと咲いてくれません。花びらが舞い、枝が少し静かになると、「次は何をしようかな」とレクリエーション担当さんの頭の中にも春風が吹きます。いや、春風というより、提出前の企画書がヒラヒラ舞っている感じでしょうか。少し焦ります。少しだけです。たぶん。

でも、春の楽しみは外だけにあるわけではありません。音、香り、手ざわり、光、お茶のぬくもり。室内にも、心をフワッと動かす入口はたくさんあります。

桜が散ったあとこそ、特養の中にもう1つの春を咲かせる出番です。

今日は外へ行けない方にも、長く座るのがつらい方にも、職員さんが走り回らなくても出来るように、無理なく、和気藹々と楽しめる室内レクリエーションを考えてみましょう。桜の余韻を、笑顔の時間へそっと繋げていきます。

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第1章…花の余韻は心に残る~外に出られない日も春は届く~

桜の季節が過ぎたあとの特養は、少しだけ拍子抜けしたような空気になります。

数日前まで「今日は咲いてる?」「風は寒くない?」と、窓の外を気にしていたのに、花弁が散りはじめると、庭も廊下もふっと静かになる。あれほど主役だった桜が、ある朝から急に背景へ戻ってしまうのです。まるで人気者の演歌歌手がステージを降りた後の会場みたいで、余韻だけがホワンと残ります。拍手の後に、急に職員さんの業務音が聞こえる。現実って、結構、正直です。

けれど、高齢者さんの心の中では、春はそこで終わっていません。

「あの桜、見事やったなぁ」

「昔は川沿いまで歩いたんや」

「お弁当持って行ったこともあったわ」

そんなひと言が、食堂の席やベッドサイドでポロリと出てくることがあります。外へ出た時間は短くても、見た景色、感じた風、隣にいた人の声は、心の奥でゆっくり広がります。春風駘蕩という言葉のように、慌ただしい日々の中にも、長閑な記憶はちゃんと残っているんですね。

特養では、全員が外へ出られるわけではありません。体調、車椅子の調整、寒さ、花粉、職員配置。どれも小さなことではなく、1つ崩れると「今日は中止にしましょうか」となる日もあります。残念ではありますが、それは失敗ではありません。安全を守る判断もまた、施設の大切な優しさです。

それでも、外へ行けなかった方に「今年は見られなかったね」で終わらせてしまうのは、少しもったいない気がします。桜の写真を眺めるだけでも、窓辺に春色の布を置くだけでも、湯呑みを手に「今年の春はどうでした?」と聞くだけでも、心の扉はそっと開きます。

外へ出られない日にも、春を感じる道はちゃんとあります。

大切なのは、「出来なかった外出」を数えることではなく、「届いた春」を増やすことです。桜の枝はもう静かでも、会話の中に、香りの中に、手触りの中に、春は形を変えて残ります。灯台下暗しとはよく言ったもので、春の入口は意外なほど近く、いつものお部屋の中にもあるのです。

職員さんがほんの少し声をかける。利用者さんが昔話を1つ返す。隣の方が「あんた、そんなこと覚えてたん」と笑う。そこに生まれる一瞬こそ、桜の後に咲く心の花なのだと思います。


第2章…特養レクは十人十色~無理なく楽しむ段取りの作り方~

特養でレクリエーションを考える時、最初に立ちはだかるのは「何をするか」ではありません。

実は、「誰が、どこで、どれくらい参加できるか」です。

ここを飛ばしてしまうと、せっかくの楽しい企画が、当日の朝に「車椅子が足りない」「あの方は眠っている」「この方は今日は食欲がない」「職員さん、今どこですか?」という現場あるある劇場になってしまいます。しかも、その劇場はだいたい開演5分前に始まります。いや、出来れば前売り券の段階で知らせてほしいところです。

高齢者さんの体調は、毎日同じではありません。昨日は笑顔で歌えた方が、今日は目を閉じて静かに過ごしたい日もあります。普段は元気な方でも、春先の寒暖差で少しぼんやりされることがあります。認知症(記憶や理解の働きがゆっくり変化する状態)の方なら、にぎやかさが楽しい日もあれば、音や人の動きが負担になる日もあります。

だから、特養レクは全員同じメニューで押し切るより、「参加の形」を分けておく方が上手くいきます。

しっかり起きて楽しめる方は、会場で春の歌や手遊びを楽しむ。長く座るのがしんどい方は、短時間だけ立ち寄る。ベッドで過ごす方には、職員さんが小さな春の小物や写真を持っていく。声を出せない方も、目線や表情で参加してくださることがあります。十人十色とはよく言いますが、特養では正にそのままです。

そして、段取りで大切なのは「盛り上げる係」だけを決めないことです。

車椅子を押す人、見守る人、声をかける人、途中で休む場所を整える人、記録を残す人。役割分担(誰が何をするかを先に決めること)が出来ているだけで、当日の空気は随分と変わります。職員さんが右へ左へ走り回ると、利用者さんも何となく落ち着きません。春の会なのに、職員さんだけ運動会。これはこれで拍手したいですが、出来れば競技種目にはしたくありません。

レクリエーションは、派手さよりも「安心して参加できる形」が整った時に、自然と笑顔が生まれます。

準備する物も、豪華でなくて構いません。春色の布、花の写真、やわらかな音楽、香りのあるお茶、手に取りやすい小物。たったそれだけでも、組み合わせ次第で立派な春の時間になります。大事なのは、用意した物を見せることより、その人の反応を見ることです。

「あ、この歌には目が開いた」

「この香りは苦手そう」

「この布の手触りは気に入ったみたい」

そんな小さな発見が、次のレクを育てていきます。試行錯誤の積み重ねは、職員さんにとっても宝物です。百花繚乱のように、いろいろな参加の形があっていい。全員が同じ笑い方をしなくても、その人らしい春の表情が1つ見えたなら、それだけで十分に価値があります。

特養のレクは、完成品を披露する時間ではなく、利用者さんと一緒にその日の楽しさを作る時間です。予定通りにいかない日があっても、そこに気づきが残れば次へ繋がります。

春の室内レクは、完璧を目指すより、逃げ道と休み道を用意しておく方が優しくなります。そうして生まれた余裕が、職員さんの笑顔にもなり、利用者さんの安心にも変わっていくのです。

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第3章…お部屋をめぐれば気分も動く~五感で楽しむ春の室内ツアー~

春の室内レクリエーションは、1つの会場に全員を集めなくても楽しめます。

むしろ、特養では「お部屋をめぐる」という発想の方が合う日もあります。大きな移動が難しい方、にぎやかな場所が苦手な方、短い時間なら参加できる方。それぞれのペースに合わせながら、施設の中を小さな春の旅にしてしまうのです。

名づけるなら、春の五感巡り。

五感(見る・聞く・香る・触れる・味わう働き)を少しずつ使って、桜の後に残った春の気配を楽しみます。難しい道具はいりません。桜色の布、やわらかな音楽、花や草木を思わせる香り、手触りの違う布や紙、そして温かいお茶。これだけでも、春風満面の時間が生まれます。

ある部屋では、窓辺に淡い色の布をかけて、春の写真を数枚置きます。利用者さんが車椅子で近づいたら、「今年の桜、綺麗でしたね」と声をかける。返事がすぐに返ってこなくても、目が写真を追ったり、口元が少し緩んだりすることがあります。職員さんの心の中では「今、見てくださった!」と小さく拍手です。実際に手を叩くとビックリされるので、そこは胸の中で。

別の場所では、春の歌を小さめに流します。音楽療法(音や歌を使って気持ちや活動を支える関わり)ほど形を整えなくても、馴染みのある歌は心に届きやすいものです。ただし、音量は控えめに。楽しいつもりの音楽が、誰かには「今日はちょっとしんどい音」になることもあります。ここは臨機応変、耳の傍ではなく、空気にフワッと置くくらいがちょうど良いです。

香りを使うなら、なおさら慎重にしたいところです。桜、柑橘、緑茶、よもぎ。春らしい香りは気分を変えてくれますが、苦手な方もいます。香りは部屋中に広げるより、小さな布やカードに少しだけ含ませて、「どうですか?」と近づけるくらいが安心です。香りが合った瞬間、「ああ、昔の庭みたい」と思い出がこぼれることもあります。

五感を使うレクリエーションは、体を大きく動かさなくても心がそっと動く時間になります。

手触りのコーナーも、なかなか味わい深いです。ちりめん、ガーゼ、和紙、フェルト。指先で撫でるだけでも、「これは着物みたいやな」「昔、こういう布で袋を作ったわ」と会話が広がります。片手しか使いにくい方には、職員さんが手の下にそっと差し入れるだけで十分です。無理に握ってもらおうとすると、途端に訓練っぽくなります。そこは春の旅、検査会場ではありません。

最後に、味わう春です。

小さな湯呑みに、香りのやさしいお茶を少しだけ。嚥下(飲み込む働き)に不安がある方には、状態に合わせて形を変えます。トロミが必要な方、飲み物よりゼリー状が安心な方、香りだけで楽しむ方。それぞれの安全を守りながら、「同じ春の時間に参加している」と感じられる工夫が大切です。

このお部屋巡りの良いところは、途中で休めることです。全部、回らなくても大丈夫。1つの場所で笑えたら成功、ひと口味わえたら成功、目を開けて春色を見てくださったら、それも成功です。

特養のレクリエーションは、全員で同じゴールテープを切る競技ではありません。利用者さんそれぞれの場所に、小さな春の便りを届ける時間です。花は散っても、香りや音や手触りが残る。そこに会話が重なれば、施設の中にも立派な花道ができます。


第4章…家族も職員も一緒に咲かせる~小さな役割が生む笑顔の時間~

春の室内レクリエーションは、職員さんだけで抱え込まなくても育ちます。

もちろん、施設の中の安全確認や体調への配慮は職員さんの大切な役目です。けれど、そこにご家族の手が少し加わると、同じ企画でも空気がフワッと変わります。車椅子を押す、写真を一緒に眺める、お茶の香りに「懐かしいね」と声を添える。たったそれだけでも、利用者さんにとっては特別な時間になります。

家族が参加すると聞くと、「準備が増えるのでは」と身構える職員さんもいるかもしれません。分かります。連絡、時間調整、座る場所、荷物置き場。考えることが増えた瞬間、春のやわらかさが事務作業の山に変わります。山紫水明どころか、書類山脈です。これはこれで登山部が必要です。

けれど、家族参加は大きな役目でなくて良いのです。

「この写真を一緒に見てください」

「この布を手に当てる時、横で声をかけてください」

「お茶の時間に、昔好きだった味を聞いてみてください」

そんな小さなお願いなら、家族も入りやすくなります。職員さんが全部を進行し、家族が見学席でただ座る形より、少しだけ役割がある方が場に馴染みます。利用者さんも、「来てくれた人」と「一緒に何かをした時間」は、心の残り方が違います。

認知症ケア(記憶や気持ちの揺れに寄り添う支援)でも、家族のひと言が思い出の扉を開くことがあります。職員さんが知らない若い頃の呼び名、好きだった花、春になると作っていた料理。そういう生活の欠片は、家族の中に眠っていることが多いものです。正に一期一会で、その日、その瞬間にしか出てこない言葉があります。

小さな役割を分け合うだけで、レクリエーションは「してもらう時間」から「一緒に過ごす時間」へ変わります。

職員さんにとっても、家族の参加は発見の機会になります。

「この方、娘さんの前では表情がやわらかいな」

「この歌より、昔の仕事の話のほうが反応があるな」

「お茶より、湯呑みの柄に興味が向いたな」

そんな気づきは、日々のケアにも繋がります。入浴の声かけ、食事前の会話、寝る前の落ち着き方。レクリエーションで見えた小さな反応が、毎日の暮らしを支えるヒントになるのです。

もちろん、参加できない家族もいます。遠方、仕事、体調、家庭の事情。そこを責める必要はありません。写真を1枚送ってもらう、好きだった歌を教えてもらう、短い手紙を預かる。それだけでも、春の室内レクには十分なぬくもりが入ります。

大切なのは、誰かひとりが頑張り過ぎないことです。職員さんは安全と流れを整える。家族は思い出の糸をそっと添える。利用者さんは、その日の体調に合わせて参加する。三者三様の関わりが重なると、施設の中にやさしい春の輪ができます。

桜の花弁は風に散りますが、人の笑顔は人の手で残せます。お部屋の中で交わした「懐かしいね」「綺麗やね」「美味しいね」という短い言葉が、その日の施設を少し明るくしてくれるのです。

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まとめ…桜の次に咲くのは今日の笑顔~春を何度でも楽しむ施設レクの余韻~

桜が散ると、春の行事がひと区切りついたように感じます。

けれど、特養の春はそこで終わりではありません。花弁が見えなくなっても、利用者さんの中には「綺麗やったなぁ」「昔はよう歩いたなぁ」という余韻が残っています。その余韻に、音や香りや手触りをそっと添えるだけで、室内にも春の続きが生まれます。

大きな行事でなくても構いません。窓辺に春色を置く。やさしい歌を流す。湯呑みを手に、少し昔の話を聞く。車椅子でお部屋を巡りながら、いつもと違う景色を楽しむ。そんな小さな工夫が、利用者さんの表情をフッとやわらかくします。

もちろん、現場は予定通りに進まないことも多いものです。眠い日もあれば、気分が乗らない日もあります。香りが苦手な方も、音がつらい方もいます。職員さんの頭の中では「よし、今日は完璧」と思った瞬間にナースコールが鳴ることもあります。春のレク、なかなか波瀾万丈です。

それでも、無理に盛り上げようとしなくて大丈夫です。

春のレクリエーションは、全員を同じ形で笑わせる時間ではなく、その人に届く小さな春を探す時間です。

家族が来られるなら、写真を一緒に見てもらう。来られないなら、好きだった花や歌を教えてもらう。職員さんは安全を守りながら、その人らしい反応を見つけていく。そうして少しずつ重なった時間が、施設の毎日を春和景明のように明るくしてくれます。

花は散っても、笑顔は残ります。

そして次の季節が来たら、また別の香り、別の音、別の思い出が待っています。今日のお部屋に咲いた小さな笑顔を大切にしながら、特養の春を何度でも楽しんでいきたいものです。

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今日も閲覧ありがとうございましたm(__)m


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